(天理教の時間)
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第1283回2024年5月24日配信

じいちゃんにまた会える日

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関根 健一

文:関根 健一

第1094回

昔かたぎ

夫の両親からもらった大切な掛け時計を何とか修理せねば。ふと、天理の商店街にある古い時計屋さんを思い出した。

昔かたぎ

 大阪府在住  芦田 京子

30年ほど前になるが、夫の両親が金婚式のお祝いのお返しに掛け時計をくださった。シンプルだが、周囲にステンドグラスが装飾されているイタリア製のおしゃれな時計だ。それを見たとき、いかにも義父の好みそうなデザインだなぁと思ったものだ。何年も居間に飾ってあって、いつも見ていた。部屋の白い壁に映えてとても綺麗だった。

我が家は天理教の教会である。それなりの時期が来たら、会長を交代しなければならない。八王子にある教会を息子に任せて、私たち夫婦は次の赴任地である奈良県天理市に移った。

ある時、教会に帰ってみると居間の時計が外されている。文字盤にカバーのない時計なので、針が緩んで落ちてしまったのだ。直してもすぐ外れるという。年数も経っているし、仕方ないのかなと思いつつ、そのままにして帰ってきてしまった。

それからしばらくして、今度は夫が教会に帰った。すると、外されたその時計を見て心が痛んだらしく、天理に持って帰ってきた。亡くなって20年になる義父への夫の想いを再確認し、何もせずに放っておいたことを申し訳なく思った。

義父は子煩悩な人だった。夫は一度も怒られたことがないという。それでいて子供たちは皆、義父を深く敬愛し、ぞんざいな言葉をつかうことなど一切なかった。

私が一番驚いたのは、そのおおらかさである。お正月など、6人のきょうだいたちがそれぞれの子供を連れて集まると、義父は必ず孫全員を一人で引き連れて繁華街を歩き、近くのデパートのおもちゃ売り場に行った。それぞれに好きなものを選ばせて、買ってくれるのだ。
当時で78人はいただろう。まだまだ幼い子供たちだったが、みんなおとなしくついて行き、好きなおもちゃを手にして満足げに帰ってきた。
私は無事帰ってくるまでハラハラしたが、転んでケガをするわけでもなく、歩道から飛び出すわけでもなく、みんな仲良く整然と帰ってきた。おじいちゃんと孫たちは信頼し合っていたのだろう。

その義父の記念の時計である。何とかして修理しないといけない。ふと、天理駅前の本通り商店街に時計屋さんがあったことを思い出した。

以前、眼鏡が古くなり、よくレンズが外れたことがあった。作ってもらった眼鏡屋さんで直してもすぐ外れるのだ。一度天理で外れたことがあり、本通りの小さな眼鏡屋さんで直してもらった。時間をかけて修理してくださり、以来一度も外れたことがない。今はもうお店を閉めておられるようだが、その時、本通りにある昔ながらのお店ってすごいなと思ったのだ。
その時の信頼感に支えられて、私は時計屋さんに入った。

ややあって、おじさんが出てきた。記念の時計なので何とか直していただけないかとお願いすると、時計をしばらく眺めてから、「日本製じゃないから部品もないし、壊れたらかなわんから」と言って断られてしまった。

私はガッカリした。だが仕方がない。けど、せっかく来たので、持っていた腕時計を出して、ベルトの交換を頼んでみた。この時計は、やはり外国製で、ベルトの取り付け方が特殊なため、どこへ持って行っても断られていた。でも頂き物なので大事にしたかった。

どうせ今度も断られるだろうと思っていたら、細めのベルトを探してきて「これでええか」と私に聞いてから、仕事にとりかかった。眼に小さなレンズをはめ込み、かなり時間をかけて交換してくれた。

「このおじさん、すごい!」と思った。一流デパートの時計売り場でもだめだったのに、やってくれた。感激した私は、もう一度しつこくもおじさんに迫った。

「おじさん、壊れても絶対文句言わないし、一筆書くから、この記念の時計、やるだけやってみてくれませんか」

私の決意と覚悟の目力に心が動いたのか、おじさんは名札を持ってきて、名前と電話番号を書くように言った。私が裏に「壊れてもいいです」と書いていたら、「そんなん、書かんでええ」と言った。

おじさんは絶対やってくれると信じて、私は電話を待った。
何日かして、できたと連絡があったので、今度は夫と一緒に取りに行った。電話があってからかなり間を置いて行ったのに、おじさんは、どうやらお店でずっと待っていてくれたようだった。時計は素敵な針に取り換えられて、見事によみがえっていた。

振り返ってみれば、義父は非常に進歩的ではあったが、とても人情に厚く昔かたぎなところがあった。私たちは、ともすれば綺麗で名の通ったお店の、立派な服装をした人を信頼する。だが、こんなところに、と思うような場所にも、一生をその道に捧げた一流の人材がいることを、亡き義父に教えられたような気がした。
本当に大切なことを見誤ってはいけないと、あらためて心に刻んだのだった。

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