(天理教の時間)
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第1270回2024年2月23日配信

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吉永先生
吉永 道子

文:吉永 道子

第1169回

母と娘の恩返し

「天理教の神様にお礼がしたい」とご婦人が来訪。聞けば母親が50年前、出産の際に大きな恩を受けたという。

母と娘の恩返し

 大阪府在住  芦田 京子

 

ある日、教会に一本の電話が入った。夫が出ると、見ず知らずのその方は、こう言った。

「突然ですが、実は私の母が昔、天理教の方に大変お世話になったので、天理教の神様にお礼をしたいと言っているんです。ついては、その話を是非聞いていただきたいので、一度お会いできないでしょうか?」

そこで約束の日を決めて、お会いすることになった。

その日、私が時間より早めに外へ出てみると、すでに玄関の石階段の上に人影があった。声をかけると、「はじめまして。母の使いでやって参りました」と、その方が口を開いた。

天理教の教会は初めてというその方に、神殿で待っていた夫が、親神様、教祖、祖霊様の三つのお社の説明をして、四拍手の参拝の作法を伝えると、熱心に聞かれ、丁寧に参拝をしてくださった。そして、別間にご案内して、その方のお話をうかがったのだった。

聞けば50年も前のお話であった。かつて彼女の母親が、大阪の天王寺にあった天理教の助産所でお世話になったことがあり、その時のお礼の気持ちを伝えたいと、娘さんが代わりに近くの天理教の教会に足を運ばれたということである。

当時、彼女の母親は、三人目の子どもを授かり、すでに妊娠八カ月の身重だったという。決して楽ではない暮らしの中で、お姑さんが病で半身不随となり、入院を余儀なくされた。

二人の幼子の手を引きながら、母親は大きなお腹で毎日、お姑さんのお世話をしに病院へ通った。頼る人もなく、お産の費用を捻出する当てもないまま、出産の日は近づいてきた。

母親は困り果て、ついに役所に行って、「なんとか子どもを生ませてください」と泣きついたという。その時、相談に乗ってくれた役所の人が、「それならここへ行きなさい。ちゃんとお世話をしてくれるから」と言って紹介してくれ たのが、その頃、大阪の天王寺にあった天理教の助産所であった。

「そこで母は出産しました。費用は300円しか請求されなかったそうです」と娘さんは言った。おそらく、いくら50年前でも、300円でお産をさせてくれる所はどこにもなかっただろう。その時の母親の窮状を見かねた特別の計らいだったという。

「その助産所の方は、本当に親切にお世話をしてくださったそうです。そのとき生まれたのが私でした。母はそのご恩が忘れられなくて、いつかお礼の気持ちを伝えたいと、今日の日までずっと思い続けてきました。実は一年前に父が亡くなったんです。それからしばらくは落ち着かない毎日を送ってきましたが、ここでやっと母も気持ちを取り直して、これまでの人生を振り返ることが出来たんだと思います。それで母からお礼を言って来て欲しいと頼まれて、今日、私が思い切ってお訪ねしました」

そのお話のあと、携帯電話で、お母様ご本人からも直にお話を聞かせていただいた。
「大変遅くなりましたが、お礼の気持ちを伝えられて嬉しく思っています」という言葉が耳に残った。

お礼をするには、確かに長い時間が経っている。しかし、半世紀も前に受けた恩に何としても報いたいというその心に、こちらが深く感銘を受けたのだった。

電話を切ると、娘さんが口を開いた。
「実は、私の父は幼い時に韓国から日本にやって来ました。私たちは在日韓国人なんです」

話を聞いて、私は驚いた。つい最近まで私が会長を務めていた教会の信者さんには韓国の方が多く、その方たちに支えられてきたと言っても過言ではなかった。そのことを思うと、このたびの出会いは、神様が結んでくださった不思議なご縁のような気がしてならなかった。

詳しくお話をうかがうに連れて、おそらく、今日の日を迎えるまでに一家の歩んだ道すがらは、言葉に尽くせぬ苦難の連続だったのではないかと思った。だからこそ、そんな中でめぐり会った天理教の助産所で出合った誠真実は、小さなともしびとなって、母親の心を温め続けたのだろう。娘さんは、母親から預かったお礼の気持ちを神様に捧げ、再び丁寧に参拝をし、帰って行かれたのだった。

その助産所は、「天理大阪助産所」という。天理教の社会事業の一環として昭和24年に開設され、昭和54年にその役目を終えた。その間、男児11907名、女児11130名、計23037名が誕生した。娘さんは、その中の一人である。

施設はなくなり、その時の助産師さんも、お世話をされた方々も、もうおられないかもしれない。しかし、その時の真心は、50年経った今も、燦然と輝き続けているのである。

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