(天理教の時間)
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第1287回2024年6月21日配信

トイレのスリッパ

伊藤教江先生
伊藤 教江

文:伊藤 教江

第1123回

頑張れ、私たち!

コロナ禍で新しい生活スタイルが求められている。次世代に引き継ぐべく、今こそ私たち大人が知恵をしぼるべきだ。

頑張れ、私たち!

大阪府在住  芦田 京子

 

久しぶりに長年住み慣れた家に帰った。息子が跡を継いでくれたので、私たち夫婦は別な仕事につき、今は離れた場所に住んでいる。普通は子供たちの方が帰省するのに、どういうわけか、老夫婦の私たちが、元いた場所にたまに帰るのだ。

孫たちが大歓迎してくれて一緒に寝ることがある。ある日、私が遅くなってから寝室に入ると、電気は消されていて、主人の寝息が聞こえてきた。孫たちも早々と寝たらしい。そうっと入っていくと、「ばあば、寝られない」と三歳の孫が小さな声で言った。

それから、「わーん」と泣き出した。お昼寝をたっぷりしたのだから無理もない。暗い部屋の中で、一人だけ起きているのが寂しかったのだろう。「だいじょうぶ、だいじょうぶ、ばあばも起きてるよ。無理に寝なくてもいいのよ。二人でずっと起きていようね」と言うと、にっこり笑って、安心したのか、そのうち眠りについた。

そういえば、私もなかなか眠れない子供だった。子供会などの行事に泊まりがけで行く時は本当に困った。眠りにつくのは、いつもいちばん最後だった。みんなの寝息を聞きながら、自分だけ人とは違うんだと悲しい気持ちになったことを思い出す。

だから、ある時、トーベ・ヤンソンというフィンランドの児童文学者が書いた「ムーミン谷の冬」という本を読みかけた時には、心臓が止まるほどの衝撃を受けた。

主人公のムーミントロールは、家族のみんなが冬眠している時に、一人だけ目が覚めて、それっきり眠れないのだ。私はムーミンの気持ちが自分と重なって、そのまま読み続けられなくなった。みんなと同じことが何故だかできない。それは「孤独」という言葉がぴったりくるような、世界から切り離された感覚である。

私は、眠れない孫を見た時、そうだ、もう一度、昔あきらめた「ムーミン谷の冬」という本にチャレンジしてみようと思った。ひとりぼっちのムーミントロールは、あれからどうしたのだろうか。何だか知りたくなった。

あらためて読んでみると、眠れなかったその先には意外な展開が待っていた。彼は初めて厳しい寒さと雪を知り、とまどいながら、冬に生きる不思議な生き物たちと出会い、たくさんの新しい発見をして、いつの間にか成長していた。

それは、いつものように冬眠していたら、得られるはずのないものだ。この本は、児童文学のジャンルに入るのだろうが、登場する冬の生き物たちが何とも個性的で、みんなそれなりに生きる重さを背負っていた。

いま、新型コロナウイルスの感染が広がり、私たちはこれまで経験したことのないような生活スタイルを求められている。ムーミントロールの初めての冬と同じだ。こんな世界は嫌だといっても、逃げ出すことはできないのだ。それならば、ここでむしろ積極的に生きる知恵を学んだほうがいい。

東日本大震災を経験した東北のある地域では、今回のコロナ禍による医療体制のひっ迫に対して、スムーズな対策がとられていると聞いた。それは、かつての災害の経験が生かされているからなのだ。

ある医師が、「災害は決してなくなることはないし、これからもいろんな形で起きてくるだろう。しかし、一つひとつしっかりと知恵を出し合って、経験を積み上げ、それを未来につなげていけば、私たちは、いや、日本はきっと災害に負けない強い国になる」と話していた。

その言葉からは、今の自分たちのことだけではなく、未来を見据えてより良い社会にしていくのだという強い決意が感じられた。それが責任ある大人の知恵というものだろう。

親が子に、子が孫にと引き継いでいく思いで、精一杯知恵をしぼって、自分たちの時代に遭遇したこのコロナ禍に立ち向かった証しを残したいと思う。

長い冬が終わり、ムーミン谷にもお日様が顔を出す日がやって来た。春は必ずやって来る。孤独に打ち勝ち、新たな出会いの中で、初めての冬を乗り越え、たくましく成長したムーミントロールのように、今こそ私たちも、腹を据えて困難に立ち向かいたい。頑張れ、私たち!

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