(天理教の時間)
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第1270回2024年2月23日配信

東京スカイツリーから、こんにちは ~かぁかの大切なスタッフへ~

吉永先生
吉永 道子

文:吉永 道子

第1145回

いちばんの親孝行

教会の住み込みのご婦人が95才で旅立った。40年間共に暮らしてきた彼女との思い出は尽きない。

いちばんの親孝行

 大阪府在住  芦田 京子

 

長年、教会に住み込んでくださっていたご婦人が、95歳で旅立たれた。教会を息子に譲って離れた土地で暮らす私は、コロナ禍のもと、お別れに行くこともままならない。

まだ私の長男が生まれたばかりの頃に出会って、それから40年、共に暮らしてきた。思い出がたくさんあって、夜になると何だか切なくて、眠れない日が続いている。

とんでもない怖がり屋で、歯医者さんにもいけない人だった。初めて会った時には歯があちこちなくなっていたので、「入れ歯を作ろうよ」としつこく誘ったが、なかなか「うん」と言わなかった。しかし、私の押しの強さにあきらめて、やっと歯医者に行って入れ歯を作った。

鼻が詰まって息が苦しいというので、耳鼻科に連れて行こうとすると、嫌だと言う。前に見てもらった時、手術をして鼻の中の異物を取らないとダメだとお医者さんに言われてから、怖くて行っていないという。「手術だけは絶対にイヤだ」と。

その時も私は、ハッタリをかけて「絶対、手術にはならないって、私が保証するから」と、何の根拠もない約束をして、無理やり連れて行った。そうしたらお医者さんが鼻の中を見て、「こりゃ、だめだ」と言って、いきなり麻酔もせずに鼻の中の異物をバチバチ切り始めた。

私は見ていてハラハラしたが、彼女は何をされているのか良く分かっていないものと見え、そのあと息が楽になり、「あなたの言った通り。手術もしないで治ったわ」と喜んでいた。「ね、言った通りでしょう?」と返事をしながら、心の中で、「あれは手術だったのではないか」と未だに思っている。

乙女なところもあり、「初恋の人が忘れられないのよね~」と言っていた。戦争が二人を引き裂いたらしいが、結婚してからも、ご主人の横顔を見ながら「あの人だったらいいのにな~」と、ずっと思っていたという。

何てひどい奥さんだ、とも思えるが、何でも正直に言うところが、何だか憎めなかった。

「えっ、タイプ?そうねえ、わたし、小林稔侍みたいな人が好きなのよ。苦み走った感じがいいわ」と言ったりして、いくつになっても、一緒に恋バナをするのはとても楽しかった。

信仰熱心で、毎日、「おふでさき」という神様のお言葉集を部屋で読んでいた。心に響くものはノートに書き写し、おぼえようとしていた。

子どもさんたちからは大切にされていたが、特にいちばん下の息子さんは、結婚していないこともあって、お母さんが元気でいてくれることが、彼の生きる希望だったと思う。

彼と、高齢になっていくお母さんの行く末について話し合ったことがある。彼は、ほかの兄弟たちには頼りたくないと言っていた。

「みんな、自分の家族のことで精一杯だから、心配かけられないんだ。俺は一人だからさ…」。彼の眼には涙があふれていた。

末っ子だから、本当は兄弟たちにもっと力を貸してもらいたかっただろうし、相談相手にもなって欲しかっただろう。けれど、彼はいつも兄弟をかばって、独り身の自分が母親の世話をするのが一番いいのだと言っていた。

彼にとって、いつしか母親が生きていてくれることが、人生の支えとなっていた。だからこそ、母親が世話になっている教会に足を運び、信仰を受け継いでいったのだろう。

ご婦人が亡くなった後、彼と電話で話をした。苦しみのない、安らかな旅立ちだった、家族やたくさんの人がお別れに来てくれ、さみしいけれど、有難かったと彼は言った。

「きっと、お母さんはあなたのために95歳まで頑張ってくれたんじゃないかな」と言うと、「そうだよね。考えたら、時間がたくさんあったのに、なんだか俺、ボーっと生きてきちゃったな」と言った。

そしてひと息ついて、「おかん、俺も、一緒に連れてってくれないかな」と、ポロっと言って、泣いた。

もっと親孝行できたんじゃないか、もっとお母さんに会いに来るべきだったんじゃないか。そう思っていたのかも知れない。

しかし、兄弟の中でただ一人、母親の信仰を受け継いだのだ。親がいちばん大切にしていたものを守っていくことは、何にも代え難い親孝行ではないだろうか。

「お母さんは、心からあなたのことを喜んでいるよ」
自信を持って私は言った。

「あなたは一人じゃない。教会のみんながいる。みんなで生きていけばいいんだよ。一緒に生きていこう」

そう言って、電話を切った。それが、長い間お世話になったご婦人への、いちばんのはなむけであると信じて。

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