第1207回2022年12月3日・4日放送
誠のかたち
父が具合の悪い住み込みさんに玉子酒を作っている。「この中に何が入っているか分かるか」と、突然私に問うた。
おさしづ春秋『誠のかたち』
誠の心というは、一寸には弱いように皆思う。
なれど、誠より堅き長きものは無い。(M22・8・21)
私事をお許しいただきたい。底冷えのする夜、台所で物音がするので行ってみると、パジャマ姿の父が手鍋をガスコンロで温めている。私は驚いて「何やってるんですか」と、かどのある声を出した。手鍋の中身のことではなく、風邪をひくだけで命とりと言われていた父の病状を思い、気がささくれたのである。
父は教会に住み込んでいるおばちゃんが風邪をひいて臥せっているので、玉子酒を作って持っていくのだといった。そして、手鍋をかき混ぜながら、「この中に何が入っているか、分かるか」といった。
私は、「酒と、卵と、それから砂糖」と答えると、「あと一つ」と訊く。
「さあ……」と生返事をすると、父は、「誠が入ってある」とにんまり笑ってやっと振り向いた。あとはしますからといって追い立てるように寝かせた。
寝室の灯りを消そうとすると、父は寝床の中から、「誠は、みんなかたちをもっている。かたちのない誠はない」と、また笑ったような顔をした。私は黙ってうなずいて灯りを消した。それから長くはなかった。
今夜、しんしんと冷気がいきわたり、もう師走だというのに、やり残したことばかりを心に積もらせながら、私は十五年近くも前の、あのガスコンロの青い火を思っている。