第1179回2022年5月21日・22日放送
海老の値段
奄美の島の若い会長さんは伊勢海老を捕るのが得意。しかし、ただの一匹も売ったことはないという。なぜか。
おさしづ春秋 『海老の値段』
恩を恩という心あればこそ、今日の日。(M31・5・9)
沖永良部島といえば、鹿児島から約530キロ南にあって、あと6060キロで沖縄本島にとどく。小さなプロペラ機にゆられて島を訪れたのは春先だったが、すでに日ざしは強く、サンゴ礁の海岸の続く南洋の情趣と花のような香りの黒糖酒が迎えてくれた。
島の教会の若い会長さんは、海に潜って伊勢海老を捕るのが得意。地元の漁師も敵わぬほどの腕前で、たくさん捕っては皆にふるまっておられた。
「これは、儲かりますねえ」と、凡俗に海老をほおばる私に、彼は「唯の一匹も、海老は売ったことないんですよ」と呟く。聞けば、今は亡きおばあちゃんに、海老を売ってはならないと言われたからだという。それをずっと守ってきたのである。
ただ、一度だけ家計が苦しくて、おばあちゃんに海老を売りたいと頼んだことがあったらしい。その時おばあちゃんは「売りたければ、売ってもいいが、神様に海老代を払え」と迫れらた。背に腹はかえられず、いくら払えばいいかと訊ねると、おばあちゃんは「海老の売り上げの二倍」と言い切ったという。以来、彼はどんなに困っても海老を売らずにきた。
「海老はおまえが創ったのか。神様のお創りになったものは、ただではない、恩を知れ」
フリージアやテッポウユリの甘い匂いのする農場、ガジュマルの巨木、深い蒼の空と海、時間がゆっくりと流れる。「ご恩報じとは、そういうもの」と、お会いしたこともないおばあちゃんの声が聞こえたような気がした。