(ラジオ天理教の時間)
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第1214回2023年1月21日・22日

偶然か?神様か?

目黒和加子先生
目黒 和加子

文:目黒 和加子

第1163回

空を見るだけで泣けてくる

身近な家族の死は、残された者にとって辛い出来事だ。夫を亡くした60代の婦人は「生きているのが空しい」と。

空を見るだけで泣けてくる

 奈良県在住・看護師  松尾 理代

 

愛する家族の死は、残された者に大きな打撃を与えます。私も二年前に母を、続いて父を見送りました。それは本当に辛い経験でした。

ですが、勤めている天理よろづ相談所病院「がん相談支援センター」の用務で、ご遺族のお話を聴き、回復される姿を見守ってきたことが大きな支えとなりました。

夫を亡くされてから半年が経つという60代のご婦人は、私たちが開催した公開講座を聴いて、遺族も相談ができるということを知り、お見えになりました。

「何から話したら…」と言い淀んでおられたので、「思いつくままに話してくださったらいいですよ。悲しさや辛さ、何でも」とお伝えすると、低い声で話し始めました。

「主人を亡くしてずいぶん経ったのに、日々生きているのが空しくて、なんで自分が生きているのか分からない。食べるのも、眠るのも、買い物するのも辛いの。人ごみに出た時、主人がいるんじゃないかと無意識に探してしまうんです。毎日泣いてばかり。季節の巡りを感じて泣き、空を見るだけで泣けてくる。娘が『泣いてばっかりじゃ、私も辛くなる』と言うので、娘の前ではなるべく泣かないようにしているんですけど…」

私は「悲しみが続いているのは、当然のことです。人によって悲しみ方や回復の仕方は違うけれど、必ず前を向くことができるようになりますよ」とお伝えしました。そして、今やるべきこととして、「ご自分の中に感情を封じ込めないで、外に出すこと。悲しければ泣いていいんですよ。涙は心を浄化してくれますものね」とお話ししました。

「主人は亡くなる前、『俺の分まで生きていてくれ』と。でも、生きていくのがしんどい。頑張らないといけないという気持ちになることもあれば、頑張れないこともあって、波があるんです。主人は亡くなる直前、仕事ぶりが評価されて大きな賞を頂きました。その賞状を額に入れようと準備していたら、これは主人の生きた証であって、私には証になるものが何もないことに気づいて、何だか空しくなってしまって…」と涙。

それでも、一日のスケジュールを決めて、日々を暮らしているとのこと。

5時半に起きて、7時に娘を送り出して、それから草引きと犬の散歩。10時過ぎに遅い朝食をとって、新聞を読み、掃除洗濯。娘の帰宅は夜9時を回るので、それから一緒に夕食をとるんです。私はあまり食欲はないけれど、娘のために食事を作るのは楽しいかな。

草引きはね、主人の畑が草がぼうぼうで、シソの芽がたくさん生えて、じゅうたんのようになってしまっているのが気になって。その内に何か作ろうと思い立って、きゅうりの苗を植えました。日に日に伸びて、葉がついて、この前一本獲れたんです。さっそく仏壇に供えたんですが、どうしても食べる気にはならなくて。苗の植え方や手入れの仕方、主人にちゃんと聞いておけば良かった。それが悔しくて…」

ポロポロと涙をこぼしながらのお話しは、90分あまり続きました。

私からは、「深い悲しみの中でも、娘さんや息子さんのことを思い、日々ちゃんと目標を持って生きていらっしゃる。大丈夫ですよ」と申し上げ、「こんな中だからこそ、心のエネルギーを蓄える時間が大事です。少しボーッとする時間や、お茶を楽しむ時間など設けられたらどうですか」と提案しました。

すると、「日常の中に目標がある…そうか、私、できているんですね。そのことが分かって安心しました。お話を聴いてもらえて良かった。また来てもいいですか?」と笑顔で帰っていかれました。

一か月後、お見えになっての開口一番は、「ここで話を聴いてもらったら気持ちが楽になって。みんなが『表情が明るくなった』って言うの。松尾さんから『悲しみからの回復に23年かかる人もいる』って教えてもらって、私はまだましなんだと思えたから。主人が頂いた賞状、ようやく額に納めて床の間に飾ることができました。それを目にすると、そこに主人が居るような気がして、気持ちが落ち着くの」と報告してくださいました。

同居している娘さんが仕事で遠方に行くと、代わりに長男夫婦や次男夫婦が食事に来たり、学生時代によく遊びに来ていた娘さんの友達が訪ねて来たり。

「みんなが心配してくれて、幸せだなぁって。主人は亡くなったけれど、支えてくれる人がたくさんいる。こんな環境で過ごせるのも、主人がみんなに心を配ってくれていたお陰です。最近ではトマトも収穫できるようになって、仏壇にお供えしているの。立派な実が成るのを見ていると、野菜に元気づけられるみたい」

そんな中、新しい出会いもあったとか。

「犬の散歩をしている時に見かけた80代のおじいさん。土手の草を丹念にとっている姿に、思わず声をかけたんです。その方も、三年前に奥さんを亡くされていて。脳梗塞で動けなくなった奥さんを介護して、自宅で看取られたそうです。亡くなる前に奥さんに料理の仕方を教わって、自炊できるようになったそうで、他にも野菜を育てたり、旅行に行ったり、ボランティアもされてるって。私もボランティアのお誘いを受けたんですが、行きたい気持ちになったら参加しますとお伝えしたんです」

それからさらに一か月、夫を亡くされてから8カ月後の面談では、さらに明るくなった様子。

「以前は『何のために生きているのか』と思ってばかりいたけれど、『日々の小さな積み重ねが生きることだ』って気づいて、凝り固まっていた心がほぐれて、肩の荷が下りた感じがしたの。主人が生きていた時には戻れないけれど、自分ができることをやっていこうと思えたんです。

ある人がね、主人が頂いた賞状を見て、『表彰されたのはご主人だけど、それも奥さんの支えがあってこそよ』と言ってくださったんです。それを聞いて、私にも生きた証があったんだなあって」

この頃には、娘さんと旅行に行ったり、自治会主催の体操教室に参加したりと、だいぶ活動的になられた様子。80代の男性との交流も続いているようです。

「その方、毎朝4時に起きて、その日にすることや食事のメニューを紙に書き出して行動しているんですって。私ね、『何でそんなに頑張れるんですか?』って聞いたんです。そうしたら、『家内を亡くしてから、毎日泣いてばかりだった。

ある日、これではダメだと思ってボランティアに応募したんだ』って。土日はボランティアガイドをして、平日は近所の草取りをしたり、野菜や花を育てたり。最近では『子どもたちに迷惑をかけられないから』と、やがて迎える日に向けた終活もしているんですって。不要な物は残さないように整理したり、最後まで健康でいたいからと、食事のメニューにも気を配って、適度な運動も欠かさない。それを聞いて、私も頑張らなきゃって。

その方にいただいた野菜を料理して、皆さんにおすそ分けしたり、そうやって喜んでいただけるのが嬉しいですね」

その後も、月に一度、一時間ほどお話をお聴きしながら二年が過ぎ、今では三カ月に一度ぐらいお見えになります。

こうした、ご遺族の皆さんの「喪の作業」には長い時間が必要です。ご遺族が悲しみを乗り越え、心の中に大切な人の居場所ができるまで、回復を急かさず、温かく支えてあげられたらと思います。

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