(ラジオ天理教の時間)
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第1214回2023年1月21日・22日

偶然か?神様か?

目黒和加子先生
目黒 和加子

文:目黒 和加子

第1174回

いのちみつめて~病気になってよかった~

30代の乳がんの女性の気がかりは、育ち盛りの4人の子ども達。母親の病気について、気持ちがうまく処理できないよう…

いのちみつめて~病気になってよかった~

奈良県在住・看護師 松尾理代

 

「相談に乗ってほしい。できれば今日中に」。

入院中の30代の女性から、私が勤める天理よろづ相談所病院の「がん相談支援センター」にそんな電話がかかってきたのは、夏の盛りでした。

彼女はその半年前、右胸に乳がんが見つかり、手術を前に腫瘍を小さくする抗がん剤治療を受けていたところ、高熱が出て、薬剤性肺炎との診断で緊急入院。ステロイドを点滴で三日間集中投与するパルス療法を行ったものの、一週間経っても38度の高熱が出ている状態でした。

「お医者さんは、レントゲンでは肺は綺麗になっているって言うんだけど、この先、薬や熱のことが心配で。ほかにも心配事が色々…」。

電話の向こうが涙声になっているのを聞いて、「30分後に訪問します」と伝えました。

病室では、症状や治療についての話から始まり、話題は中学生の長女を筆頭に、育ち盛りの四人の子どもたちのことへ。

「心配は尽きないけど、今は顔も見たくない。次女は『お母さん、死んじゃうの?』なんて聞いてくるし、三女はソファやテーブルをがんがん叩く、末の長男は『お母さんががんになって車に乗れなくなった。サッカーにも行けない、嫌だ』なんて言うんです」と。

それでいて、「私が病気になったばっかりに、夏休みなのにどこにも連れて行ってあげられない。それが可哀そうで」と涙。

当初は体調を考え、30分の面談予定でしたが、30分延長することにしました。

「がんと診断されてから、自分の中で気持ちの整理ができないまま、現実がどんどん進んでいっている感じ。何をどうしたらいいのか分からなくて」と言う彼女に、まず、肺炎になって辛かったことや、今もしんどさが続いていることに共感を示しつつ、「それでも前を向いて頑張っていると思いますよ」と言葉をかけました。

そして、「母親ががんであることを知った子どもの反応はさまざまですが、上手く気持ちを処理できなかったり、思いを表現できない子は少なくないんです。そんな時はスクールカウンセラーが頼りになるんですよ」とお伝えしました。

すると彼女は、「私ったら愚痴ってばかりで。でも、こうして話を聴いてもらったら、少し落ち着いてきました。本当は、子どもたちをギューッと抱きしめたい。けれど今はそれができそうになくて」と、ほろ苦い笑みを見せました。

翌日、がんについて子どもへどのように伝えたら良いか、参考になるパンフレットを手に病室を訪ねると、ギクッと驚いた様子。「どうされましたか?」と声をかけると、「もう、消えてなくなりたい。楽に死ねる方法はないかと考えていたところに、松尾さんが来てくれたの。救いの神だわ、ありがとう」と。

「そう、死にたいと思うほどに辛いのね。私はあなたの顔を見るのを楽しみに来たのよ」と声をかけ、パンフレットは渡さずに、かつて出会った患者さんたちが、辛い時期をどう乗り越えていったかをお話ししました。

それから五日ほどして退院。半月後、検査を受けるため、姑さんの運転する車で来院されました。表情がいいので、「前より少し元気になったみたいね」と声をかけると、「この爪、なんとかならないかなあ? ぐらついてしまって力が入らないの。特に右手の親指は剥がれそうで」と言います。

抗がん剤は爪や皮膚など、活発に組織が入れ替わる場所に影響してしまうのです。化学療法室にその旨を取り次ぐと、その日のうちに対応してくれることになりました。

次の週、受診後の面談では、「先週は指のテーピングの方法を教えてもらって安心しました」と笑顔。実家のご両親が応援に来て、布団の上げ下ろしや洗濯などを手伝ってくれているそうで、「いつ爪が剥がれるか心配なので、両親には感謝しかないわ。近所に住んでいる夫の母親や妹も、時々おかずを届けてくれるの。本当は全部、自分でやらなければいけないんだけど、ありがたいわ」と感謝に堪えない様子。

私からは、「散歩をしたり、買い物に行ったり、少しずつ前を向いて動き出していて、素晴らしいですね。周囲の人に手伝ってもらうことに感謝の思いを持てているのが、とってもいいことだと思いますよ」と伝えました。

最初の出会いから一カ月後の面談では、夜になると色々な不安が出て眠れないと訴えるものの、一方で子どもの学校での大事なことは忘れないようにメモをしたり、指を守るためにゴム手袋を付けて洗い物をしたり、洗濯をする時も指に力を入れないように気をつけるなど、前向きに努力をしている様子が見えました。

また、夫が家事を手伝うようになったそうで、「以前は『私のこと何にも分かってない』って不満だったけど、今では買い物も一緒に行ってくれる。ステロイド治療で免疫が下がっているから、私は車で待っていて夫任せなの」と嬉しそうに話します。オンラインで仕事に復帰することもできたようで、半歩ずつ、確実に前進していることを自分で確かめながら、言葉にしていました。

その一か月後には、「朝夕30分ぐらいランニングすることにしたの」と、さらに前向きに話す一方、手術について迷っている胸の内を明かしました。

「手術をしても再発するんじゃないかとか、治療はいつまで続くのかなとか、色々考えてしまって。病気を抱えながら前向きに生きるって、難しいのね」とポツリ。

それから一か月後、彼女は頑張って手術を受けました。心配していたリンパ節への転移も見られず、安堵の胸を撫でおろしたのです。

暮れに、彼女から一通の手紙が届きました。

「松尾さんには、手術の前、手術の時、その後もずっと支えてもらって感謝でいっぱい」との書き出しで、「悪い方のお乳を取ってもらって安心感でスッキリ。片方無くても気にならない。ウイッグのことも最初はあんなに気にしてたのに、今は周りの人に『脱毛症なの、治療の影響でね』って自分から言える。元気な時、病気は遠くにあると思っていたけど、がんになって色んなことを知ることができた。がんに罹っても、元気になれる力があるんだっていうことも。以前とは見ている景色が違う感じ。今はリモートだけじゃなく、もっと人と触れ合いたい、人のためになる仕事がしたい、人の力になりたいと思う自分がいるの」

そして、次の一文に胸を突かれました。

「私、病気になってよかったなと思えるようになったの。今までは実家の母や夫の母親に対して傲慢で、偉そうにしていた。がんになって、初めてそのことに気づいたの。色んなことがあったけど、そんな私をずっと支え続けてくれた。感謝の気持ちでいっぱい。そのことを手紙に書いて、二人に渡したの。みんなの支えがあって今がある。家族の存在が力になる。これからは感謝の気持ちをもって過ごしていこうと思います」

 読みながら、私もボロボロと泣いておりました。

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