(ラジオ天理教の時間)
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第1216回2023年2月4日・5日

食べ物を通して感じること

岡先生(掲載)
岡 定紀

文:岡 定紀

第1152回

夢があるから頑張れる

食道がんと診断された80代の女性。在宅療養を選択し、夫と二人の娘にたすけられながら、前向きに過ごす日々。

夢があるから頑張れる

奈良県在住・看護師  松尾 理代

 

いま、日本では二人に一人が、がんに罹る可能性があるとされています。ある日、皆さん方ご自身が、あるいは近しい家族が、医師から「がん」だと告げられたら、何をどう考えるでしょうか。

ある80代の女性が、喉に違和感を感じ始めました。ひと月、ふた月経つうちに段々と喉の通りが悪くなり、ついには飲み込みにくくなるまでに。近所のクリニックで受診すると、食道がんと告げられ、私の勤める天理よろづ相談所病院「憩の家」を紹介されました。

ご本人は、食道の中の写真を見て、「喉が通ってない!」と、かなりショックを受けたと言います。「最初、がんと聞いた時、もう80まで生きたし、やりたいことをやってきたからいいかなあと。家族も私の様子を見て、治療はもういいと思ったみたいだし。だから、先生から勧められた手術を受けずに、放射線と抗がん剤の治療を選んだんです」と。

食べられない、飲み込みにくい、そんな状態での最初の治療は本当に辛いものでした。それを見守るご家族も、さぞ辛かったでしょう。患者さんは、五歳年上の夫との二人暮らし。長女さんは車で四時間ほどの所に、次女さんは電車で一時間ほどの所に住んでいます。懸命に治療を受けている母親の姿を見て、娘さんたちは、担当の看護師に「頑張って、絶対に治ってほしい。よろしくお願いします」と、涙ながらに話したそうです。

私が患者さんと長女さんに会うことになったのは、最初の治療を終えて退院された翌日のこと。外来の看護師から、「通院が大変なので、利用できる制度や支援などを紹介して欲しい」と、がん相談支援センターに依頼がありました。

早速、1階ロビーに出向いて、患者さんに「ご自宅から車で片道小一時間かかるんですか? 毎日の通院は大変ですねえ」と声を掛けると、「でも、やっぱりうちはいいわね」と。「けど、食事はぼちぼちしか食べられないの。病院から出してもらっている栄養剤は飲めるんだけど、その味にも飽きてしまって」と、つぶやきました。

また付き添いの長女さんに、「高齢のご両親二人きりの生活については、何かと心配が多いんじゃないですか?」と聞くと、

「そうなんです。私は遠くに住んでいるし、近くにいる妹は車の運転ができない。どちらも仕事がありますし。明日は父が運転してくれることになっているんですが、高齢なので毎日は大変。送迎サービスについて相談してみたんですが、なかなか難しそうですね」と話してくれました。

それぞれの大変さ、辛さに共感しつつ、長女さんには入院治療の選択肢があることや、地元の地域包括支援センターの情報などを提供。患者さんには、ドラッグストアで購入できる、飲み込みにくい人のための介護食品や、便秘予防のための食物繊維を含んだジュースやゼリーをお勧めし、「先ずはご自身が食べたいものを食べて、足りない栄養をそういった物で補うといいですよ」とお伝えしました。

翌日は、運転してこられたご主人、その次の日は患者さんと一緒に介護タクシーで来られた次女さんと顔を合わせることができ、その後も折にふれて、家族の皆さんの困りごとや思いを聞かせていただくことができました。

家族は近しい間柄だけに、あえて言わないことや面と向かっては言いにくいこともありますよね。でも、一人ひとりの思いは、やはり言葉にしなければ分からない。それぞれの話を聞きながら、その思いが家族同士で伝わり合えばいいなと思いつつ、相談に乗らせていただきました。

最初の相談から一週間後の長女さん。

「介護タクシーが思ったより安くて、週三日なら医療費控除を受けた分でタクシーを使って通院できそうです。これで父の送迎の負担も減ります。私は仕事が休みの日は、前の晩に実家に泊まって通院に付き添うつもりです。妹はコロナ禍で休みがとりやすくなったので、週に三日は実家に帰って家事を手伝ってくれているんです。母は私たちが行くと調子がいいみたい。〝幸せホルモン〟のオキシトシンが湧くのかな。だから可能な限り実家に顔を出そうと、妹と話しているんです」と、家族それぞれができることについて話してくれました。

しかし、両親に対する心配は尽きないようで…。

「母はがんが身体に残ったままなのは嫌だから、最期まで治療を受けたいと言うけれど、高齢で体力が落ちると、日常生活も大変になるんじゃないかしら。父はマイペースで、上げ膳据え膳が当たり前だから、母にはすごい負担になってしまう。今日はお昼ご飯を作るのも大変なので、パックのご飯とレトルトカレーを用意したんです」

それに対して患者さんは、「娘が一緒に来てくれると心強いわ。退院してから元気になれたのは、娘たちがそばにいてくれたから。夫も娘が来ると気持ちが安らぐみたい。今日のお昼も娘が持ってきたレトルトカレーを、自分で作って食べてくれました。食事は少しずつ自分で段取りしてもらうようにしようかな。先のことを考えると、その方がいいのかもしれないわね」と。

また、ご自身の体調については、「食前に粘膜を保護する液体の薬を飲むようになってから、喉の通りがいいの。水餃子や菜っ葉のおひたしも食べられたのよ。やっぱり、少しずつでも食べられるのが幸せ。次はうなぎとお肉が食べたいわ」とうれしそうに話し、今後については、「治療は最後まで受けたいの。きちんと病気を治して、早く娘たちを解放してあげたい。今は体力を消耗しないために、娘たちにおんぶに抱っこだけどね」と、娘さんたちのこれからの生活を気遣っていました。

「治療を受けた先に、やってみたいことはありますか?」と尋ねると、「娘が勧めてくれたホテルや温泉に行きたいわ。治療を受けて調子が良くなってからね。だって、出された料理は全部食べたいでしょ? 色んな料理を少しずつ、おいしくね。でも、やっぱり主人を残して出掛けるのは心配かな」

すると長女さんが、「その時には、私の娘を実家に泊まらせようかな。初孫なんで、父がものすごく可愛がってるんです。二人は気が合うみたいだし、その作戦で行こうかなと。母には存分に楽しんでもらいたいし」。

「それなら水族館めぐりがしたいわ」と患者さん。
「お城めぐりや動物園も好きなんだけど、暑い所を歩き回るのは大変だから。娘が調べてくれたけど、結構色んなところがあるのね。クラゲの水族館なんてすごく楽しそう。この先もやりたいことがあるから、まだ5年、10年は生きられるかな。そのためにも、頑張って治療を受けようと思います」と、笑顔で話してくださいました。

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