(天理教の時間)
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第1279回2024年4月26日配信

欲しい愛情のかたち

宇田まゆみ
宇田 まゆみ

文:宇田 まゆみ

第1075回

夫よ、「ありがとう」と、言うことなかれ!

結婚生活40年。歳月を重ねて分かったのは、夫は妻に対して「ありがとう」や「ごめんなさい」を言わないということ。

夫よ、「ありがとう」と、言うことなかれ!

兵庫県在住  芦田 京子

日本で、バレンタインデーに、女子が想いを寄せる男子にチョコレートを贈るという習慣はいつからできたのだろう。少なくとも、私が高校生だった頃には、女子の間で話題になっていたのだから、半世紀ぐらいは経っているだろうか。

いまは義理チョコや友チョコ、自分チョコなど色々あるようだが、かつてのバレンタインデーは、チョコレートを贈ることで、女子が男子に想いを伝える日だった。
だから、私も夫とお付き合いをしていた頃には、毎年チョコレートをせっせとプレゼントしていた。だが、結婚が決まると、特に想いを伝える必要もないと思い、遠距離交際だった婚約中はチョコレートを贈るのをやめた。

すると、夜になって電話がかかってきた。
「チョコレート、まだ届いてないけど」。

当時はバレンタインデーが注目を集め始めた頃で、夫も仕事の同僚から「届くぞ、届くぞ」と冷やかされてそのつもりになっていたのに、とうとう届かなかったので、何か手違いがあったのではと思ったらしい。
「そう、おかしいわね、送ったのに」などと、とぼけてその場をやり過ごしたが、それからは反省して、結婚してからも毎年チョコレートをプレゼントするように心がけていた。

当時、夫はよく遠方に出張していた。2月14日は毎年必ず九州に行っていたので、私はいつも旅行かばんの中にこっそりチョコレートを忍ばせておいた。「旅先で見つけてくれたら、ちょっと気持ちがほっこりするかしら」などと期待して。
ところが、帰ってきても夫は「チョコレートありがとう」でもなければ、「嬉しかった」でもなく、さらにはホワイトデーのお返しも全くない。

何年もその状態が続いたので、別に嬉しくも何ともないんだなあと思い、「なんだか、アホらしいから、やーめた!」と、ある年、チョコレートをかばんに入れるのをやめた。

すると、2月14日の晩、珍しく旅先から電話がかかってきた。
「チョコレート、どこ探しても入ってないんだけど…」と言うではないか!

「えーっ!だ、だって、いつも、ありがとうも言わないし、何の反応もないから、やめちゃったのよ。今年は入れてないわ」と言うと、夫は「毎年楽しみにしてたのになぁ」と残念そうに言うのだ。
私は心の中で、「それならそうと、一言ぐらい、何か言ってくれればいいのに」と思ったが、とにかく、これからは毎年かばんに入れようと、あらためて心に誓った。「男の人って、わけわかんないなぁ」とため息をつきながら…。

そんな私たちも、昨年で結婚生活40周年。「ルビー婚式」と言うのだそうだ。この40年間、一度も結婚記念日を祝ったことがない。お互い忙しく、40年の節目の日も離れ離れで迎えた。
だが、色々あったけど、今日まで元気で夫婦そろっていられることは、何よりもありがたい。
そして、この40年で学んだことは、夫というものは、妻に対して「ありがとう」や「ごめんなさい」を言わない存在だということだ。今の若い世代は違うかもしれないが、私たちやその前の世代は本当に言わなかった。私の父も母に対して、口に出してお礼を言ったり、謝ったりすることは一度もなかった。

ある年配の奥さんが、以前言っていたことを思い出す。
その方のご主人は、事業に失敗して多額の借金を作った上に、体を悪くして働けなくなった。そこで奥さんが、泊まり込みで病院の付き添い婦をして、細々と借金を返していたのだった。
元々頑固一徹のご主人だが、時折「わしは、家内の働いている病院に足を向けて寝られんのです」と目を潤ませて言うことがあった。その割には、たまの休みで帰ってくる奥さんに、相変わらず怒鳴り散らしていた。

そのご主人に、ついに最期の時がきた。幼なじみのご夫婦は、お別れの夜、苦しい息のもとで、二人でふるさとの思い出話をしたという。 そして終わりに、ご主人が言った。「今まで苦労をかけたなあ…ありがとう」。
奥さんは、「その言葉を聞いた途端、これまでの苦しみがパーッとどこかへ飛んで行ってしまった」と、その時を振り返っていた。

私はその話を聞いて、「そうか、男の人が本気でお礼を言う時は、お別れの時なんだな」と思った。 だから、夫から「ありがとう」も「ごめんね」も言ってもらわなくていいんだ。それより、一日でも長く、元気で生きていてもらったほうがずっといい。そう思った。

夫よ、「ありがとう」と、言うことなかれ! 

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