第1254回2023年11月3日配信
来生への願いを込めて
「魂は生き通し」との教えを胸に患者さんと接する看護ようぼく。来生に良い運命が授かるように、との願いを込めて…。
來生への願いを込めて
天理教では、「人間の体は、この世と人間を創られた親なる神様からお借りしているものであり、死ぬときに神様へお返しする。しかし、魂は生き通しで、前生での心づかいに応じて新たな体をお借りして、再びこの世に生まれ変わってくる」と教えられる。看護師たちは、「患者さんに少しでも良い〝生〟を送っていただき、たとえ亡くなられたとしても、来生に良い運命が授かる種となりますように」との願いを込めて、お世話に当たっている。
天理教の熱心な信仰者であるご婦人が難病になられ、入退院を繰り返していた。笑顔の素敵なやさしい方で、同室の患者さんの悩み相談にも応じて、誰からも慕われていた。しかしある日、頭痛を伴う急激な病状の悪化で、意識不明となってしまわれた。
医師はご家族に、回復は望めず、厳しい状態だと伝えた。ご主人は、最愛の奥さんの、あまりに急激な容体の変化に驚き、嘆き悲しみ、枕元で奥さんの名前を呼び続けておられた。まだ中学生だった娘さんは、ただ茫然とするばかりで、その衝撃の重さゆえ心身への影響が懸念された。
そこで、娘さんにお母さんと共に過ごす時間を大切にしてもらおうと、「お母さんのケアを一緒にしましょう」と声をかけた。彼女は初めは戸惑いながらも、「旅行でお土産に買ってきたスカーフを持ってきて、着けてあげてもいい?」と、おしゃれの提案も申し出るようになり、少しずつではあるが、穏やかな雰囲気に変わっていった。
看護師は、教えに基づいて患者の心のケアに当たる事情部講師と共に、交代で病の平癒を願うおさづけを取り次ぎ、ご婦人の奇跡的な回復を懸命に祈った。しかし、願いは叶わず、およそ一週間後に息を引き取られた。ご家族の悲しみの深さを目の当たりにして、医師も看護師も、無念さと無力感に打ちのめされた。
それから、ひと月も経ったであろうか、当時の看護部長から呼び出しを受けた。
「あなたの病棟で亡くなられた患者さんのご主人が見えて、多額の寄付を置いていかれました。奥さんの急変に動転してしまい、どうしてよいか分からなかったときに、看護師たちが、意識があるときと同じように奥さんに声をかけて世話をしてくれているのを見て、『ああ、まだ妻は死んでいない。生きているんだ』と思えたそうです。そうすると、次第に気持ちが落ち着いてきて、奥さんが、
『ここの看護師さんには、本当にいつも良くしてもらっているの。お礼を渡そうとしても必ず断られるけど、いつかはお礼がしたいわ』
と話していたことを思い出され、その願いを叶えるために、私のところに来られたのです。
『必ず、あの病棟の看護師さんたちのために役立ててもらいたい』と言われましたが何が必要ですか?」
思わず涙が込み上げた。ご家族の危機的状況に寄り添うことができたスタッフの看護援助を誇りに思うとともに、大きな温かいものに包まれる思いであった。まだ、つらい状況にあるにもかかわらず、私たちの心を救ってくださったご主人に、心から感謝するとともに、「奥さんは、来生きっと元気な体を神様から貸していただけるに違いない」と思った。
その後その寄付金で、当時は高価で、七階の研究室にわざわざ出向いて借用していた機能満載のコンピューターを、ナースステーションに設置してもらった。それからは、自分たちの病棟でさまざまなデータ整理や研究発表用のスライド作成等が可能になり、大いに助けられたのだった。
HOME

