第1228回2023年5月5日配信
ちょっと立ち止まって
看護ようぼくの心の指針は、教祖のたすけ一条のお心である。常に患者さんの気持ちに寄り添う看護を目指して…。
胸の奥にこの花あるかぎり
「ちょっと立ち止まって」
看護師を教育するときは、知識・技術・態度が正三角形になるように育てねばならないといわれる。看護ようぼくの育成において、態度、すなわち看護を行うに当たっての心の目標(めどう)は、天理教教祖・中山みき様「おやさま」のたすけ一条のお心である。おやさまの手足となる者として、恥ずかしくない自分であるか、常に問いかけなければならない。
患者さんは、病を得て心が研ぎ澄まされているので、自分のところへ来た人が、本当に自分のために来てくれたのか、それとも業務で来たのかを瞬時に見分けられる。たとえば、病室から看護師が出てきたばかりなのにナースコールが鳴ることがある。不思議に思って、「さっき、看護師が来ていましたよね」と尋ねると、「ああ、あれは白衣が入ってきただけ」との返事。白衣が点滴を取り替えに来ただけだから、ほかのことは何も頼めないというのである。
医療現場の状況は年々難しくなり、年若い看護師は、押し寄せる多重課題と時間切迫の嵐に対応を迫られる。次の、またその次の業務を頭のなかで段取りしながら働いていると、患者思いの看護ようぼくであっても、白衣のなかに自分自身を入れていくのを忘れるらしい。
心優しい看護師が擦り切れてしまわぬ対策も必要となる。そこで取り入れたのが、「ドアノブ効果」である。これは、電車の車掌が車両を立ち去るとき、ドアノブに手をかける前に、もう一度振り向いて全体を見渡し、用のある人がいないかを確認する方法である。これを看護の場面に応用して、一つの処置が終了し、ドアノブに手をかける前に、ちょっと立ち止まって、「ほかに何か、お困りのことはありませんか?」と声をかける。これで、遠慮がちな患者さんの思いを聞き出すことができ、二度手間もなくなり、満足していただけるのだ。
私が主任看護師だったころのこと、まだ若い難病の男性患者が入院されていた。血管が細くて点滴がなかなか入らないので、もっぱら私が点滴の針を刺す担当になっていた。その方は、肺の機能が侵されていて、いつもすごい努力呼吸をされていた。点滴が無事に入って立ち去る前に、私は尋ねた。
「何かほかに、してほしいことはありませんか?」
「主任さん、五分でいいから……息…代わって……」
無論、代わることはできない。〝でも、そのくらい苦しいのだ……〟。
思わず立ちすくむ私に、その方は、
「冗談やで。時々様子を見に来てくれるだけで嬉しい。夜中に目が覚めて、息苦しくて、このまま息が止まってしまうんじゃないかと怖くなる。でも、夜勤の看護師さんは忙しいのが分かっているから『不安だからそばにいて』とは言えない。だから、わざとティッシュの箱などを落として用事を作ってから、ナースコールを押して来てもらっているんだ……」
と切れ切れの息で話された。
患者さんの本当の気持ちを知り、すぐに、病棟でカンファレンスを持った。若い看護師たちは、その方から夜間のナースコールが多いことに疑問を感じていた。それなのに、ベッドサイドへ行っても、落ちているものを床から拾い上げるといった用事が済むと、さっさと戻ってきてしまっていたのを反省した。
それからは全員が、夜間巡視のときも、そっとしばらくそばにいて、息づかいを見守るようにした。患者さんは薄目を開けて様子を見ておられたようで、夜間のナースコールが減った。そして、「みんなが僕を見守ってくれているから、頑張るわ!」と明るい表情になり、最後まで希望を持って病苦と闘われたのだった。
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