第1261回2023年12月22日配信
自分の心に寄り添う
いくらポジティブに考えても、心の不安を払拭できない。そんな時は、その不安な気持ちを大事にしてみては?
自分の心に寄り添う
奈良県在住・臨床心理士 宇田 まゆみ
先日、大勢の人の前でお話をさせて頂く機会を得ました。少ない人数でも緊張するのに、何百人という人の前でお話をさせて頂くことになり、その日が近づくにつれ、緊張と不安が募ってきました。そんなに大勢の前でうまくお話ができるだろうか、頭が真っ白になって言葉に詰まってしまったらどうしよう、などと考えると不安は膨らんでいきます。
そんな時に私が今までよくやってきたのが、ポジティブシンキングです。不安を打ち消すために、「これもいいことだ!」と、自分に言い聞かせるのです。
ただ、そのように頭で考えて不安から目を逸らそうとすると、不安がなくなったような勘違いをしますが、決して無くなってはいないのです。これもいいことだと頭で考えながらも、心の中では不安が渦巻いている。頭の声と心の声にギャップがある状態です。しかも自分としては、もう不安は払拭できたと思い込んでいるのですから、これはなかなか厄介です。
人は何か辛いことに直面すると、それが早くなくなって欲しいと思うものです。身体の痛みもそうですが、悩みごとや人から否定されるようなことがあると、嫌な気持ちになります。その気持ちを直視するのが辛いので、仕方がないと割り切ったり、これにも何か意味があるんだ、これで良かったんだと気持ちを切り替えようとします。そうして苦しみから逃れているようでいて、実のところは強く苦しみを握ってしまっているのです。
私が大勢の人の前で話すことへの不安を抱きながら、それを直視するのが辛くて、「これもいいことだ!」と言葉にした時、横にいた主人からこんな風に言われたのです。
「それ、自分の気持ちを飛ばし過ぎじゃない?不安なんでしょ? 不安に思っている自分の気持ちを、もっと大事にしてあげた方がいいよ」。
私は狐につままれたような気持ちになりました。しかし、よく振り返ってみると、私はこれまで自分の気持ちを大事にするということを、ほとんどしてこなかったことに気づきました。ポジティブシンキングによって、無理に頭で切り替えて、心の声に蓋をしていたのです。
主人にそのようにアドバイスを受け、自分の感じている不安に自分で寄り添ってみることにしました。
自分の心の声に耳を傾けると、「不安だな、怖いな、うまくいくかな、大丈夫かな」など、色んな気持ちが出てきます。その気持ちを否定せず、そのまま受け止めて、「そうだよね、不安だよね、怖いよね、分かるよ、そう思うよね」と自分自身に語りかけ、100パーセント自分の気持ちに寄り添ってみたのです。
それまでは、「不安とか怖いとか思っていても仕方がない。気持ちを切り替えていこう」と考えて、あまり丁寧に向き合うことはありませんでした。そこを敢えて、まるまる自分の心の声に寄り添った時、何とも言えない安心感が出てきたのです。
人は何か悩みや問題を抱えた時、誰かに相談したくなります。カウンセリングの現場にいると、そのようにして相談に来られる方と多く出会わせて頂きます。その時感じるのは、悩みや問題を相談しに来た方は、何より安心感を得たいのだということです。
たとえ問題が解決しなくても、話を聞いてもらい、分かってもらえたという安心感、自分はこれでいいんだ、一人ではないんだという安心感を得ることで、物事の見え方もその後の展開も大きく変わります。
実際に、私は自分の心の声に100パーセント寄り添った時、何とも言えない安心感に包み込まれ、不安が不安ではなくなりました。そして、今までとはちょっと違う心の声が出てきたのです。
まず出てきたのは、「そんなに大勢の人の前で話す機会を頂けるなんて、すごくない?」という声で、続いてそれに答えるように、「確かにすごいよね。自分がいくらしたいって言っても、なかなかできるものではないもんね」
さらに、その心の声にそのまま寄り添っていくと、心の底からじわじわと喜びが湧いてきて、「ほんとにすごい!そんな機会を頂けるなんて、本当に有り難い!」との感謝の声になったのです。
そして当日も、感謝の気持ちで精一杯、自分のできる限りのお話をすることができ、うれしい楽しい体験をさせて頂くことができました。
人は皆、幸せになりたいと思っています。幸せになるために毎日の色んな体験があるのだとしたら、不安や恐怖、怒りや悲しみなど、幸せとは遠く離れた感情からも、きっと幸せにたどり着くことができます。
その秘訣は、自分の心の声にそのまま寄り添うこと。この時に大事なのは、良い悪いの判断をせず、まずは100パーセント受け入れることです。それができた時、自分の内側から安心感が湧いてきます。そして、その安心感が自分を幸せへと導く力になってくれるのです。
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