(天理教の時間)
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第1279回2024年4月26日配信

欲しい愛情のかたち

宇田まゆみ
宇田 まゆみ

文:宇田 まゆみ

第1104回

10年後、5才の君に伝えたいこと

五才の孫が、知らぬ間に丸坊主になっていた。どうやら近所の美容院へ一人で行ったようなのだが…。

10年後、5才の君に伝えたいこと

  岐阜県在住  吉福 多恵子

ピンポーン。「はーい!」

玄関にいたのは、すぐ近くの児童センターの先生でした。そして、もう一人。我が家の三人目の孫、たいようくんが先生に手を引かれて…。

応対に出たたいようくんのお母さんは、もうびっくりです。さっき幼稚園へお迎えに行って、家の中で遊んでいるとばかり思っていたたいようくんがそこにいたのですから、頭の中にはクエスチョンマークがいっぱい浮かんでいたと思います。

児童センターの先生の話はこうです。
「たいようくんが一人で遊びに来たのですが、ご承知のようにうちの施設は就学前のお子さんは保護者付きでないと遊べないんですよね。家もお近くなので、ちょっと送ってきました」。

お母さんはすっかり恐縮して、丁寧にお礼を述べました。先生はたいようくんに「今度はお母さんと一緒に来てね」と声を掛け、帰っていかれました。

さて、お母さんにはもう一つ疑問がありました。たいようくんの頭がきれいな坊主頭に散髪されていたのです。
「ねえ、たいよう、もしかしてルビーさんの所へお散髪に行ったの?」
「うん、行ったよ」
我が家の三軒筋向かいには、長らくお付き合いしているルビー美容院があり、孫たちもそこで散髪してもらっているのです。

「あのね、勇人(ゆうと)にいちゃんみたいな髪型にしてくださいって言ったんだ。それからお礼に紙芝居を読んであげたよ」
お母さんの頭の中も少しずつ整理されてくると、たいようくんの足取りや行動の理由も想像がついたようです。美容院へ散髪代を支払いに出かけ、そこで聞いた何とも楽しいお話を私に聞かせてくれました。

お話の登場人物となる家族を紹介しましょう。我が家は三世代、主人と私、息子とその嫁、そしてその子供たちが男の子三人。このお話の時には、小学六年生、四年生、年中さんでした。加えて、里子としてお預かりしている二才の男の子と高校一年生の女の子が家族として暮らしています。

さて、その頃我が家では、教会長が主人から長男に代わる代替わりの大きな行事が迫っていて、その準備でみんなが大忙しの日を過ごしていました。

その日、たいようくんは幼稚園から帰ってきて、お母さんも遊んでくれないし、一人で寂しかったのでしょうか、「そうだ、髪の毛を切りに行こう」と思いつきました。

実は、里子の二才の男の子、通称「四男くん」は、たいようくんより三つも年下なのに、ものすごくヤンチャで、何かというとたいようくんの方が泣かされることが多いのでした。
四男くんに髪の毛を引っ張られ、痛い思いを何度もしているたいようくんは、「そうだ、勇人にいちゃんみたいに丸坊主にしたら、髪の毛を引っ張られないで済むかも」と考えました。

けれど、問題はお金。たいようくんは、いつも散髪してもらった後で、お母さんがお金を払っているところをちゃんと見ていたのです。

「僕はお金ないなあ…、そうだ、ひらめいた! この前借りてきた紙芝居、もう読めるようになったから読んであげよう」。
思いついたら即実行のたいようくんなのでした。

そして、ここからはルビー美容院の奥さんの話です。
「こんにちは」って、たいようくんが一人で入ってきた時はびっくりしましたよ。しかも、「お兄ちゃんみたいに丸坊主にしてください」って言うんです。
「お母さん、来ないの?」って聞いたら、「お母さんは忙しいから」って…。事情は分かってますし、大丈夫だろうと思って、丸坊主にしてあげました。
散髪している間、たいようくんは楽しいお話をいっぱいしてくれましたよ。

「はい、できました」と言って着せていたマントを取ってあげたら、たいようくんが「お礼に紙芝居を読んであげるね」って。思いもしないハプニングでした。ちょうど来ていたお客さんと二人で楽しませてもらいました。

読み終わったら、「じゃあね、僕、これから児童センターへ行って紙芝居読んであげるんだ」って、元気良く出ていきました。久しぶりに紙芝居なんか見せてもらって楽しかったですよ。

分かってみたら、みんなが笑顔になれるような出来事でしたが、移動の途中で事故もなく、多くの人に温かく見守られていたおかげだと胸を撫でおろしました。

思えば、小さな子供の心といえども立派に考えがあるものなのですね。話を聞いて、おばあちゃんとして嬉しかったことが二つありました。

一つは、四男くんにいつも髪の毛を引っ張られ、泣いているだけだったたいようくんですが、仕返しに暴力を振るおうとするのではなく、自分の髪の毛を短くして、引っ張られないようにしようと考えたこと。

そしてもう一つは、散髪代というほどの意識があったのかは分かりませんが、お礼に相手を喜ばせてあげようと紙芝居を持っていったこと。

買い被りかもしれませんが、人のことを思う気持ちが育っているように思えて有り難く感じました。これも、教会で神様中心の生活をしているおかげであり、神様のご用を懸命につとめるお父さんやお母さんの背中を見て育ってきたおかげだと思っています。

ところで、こんな小さな生活の一コマ、10年後には誰もが忘れていることでしょう。でも、一瞬一瞬を積み重ねて人として成長していく姿、どこかに留めておきたいなあと切に思います。

10年後、中学生か高校生になったたいようくんが、この文章にふれた時、どんな顔をするかな。楽しみです。

 


 
モラルハラスメント

 
夫婦の離婚原因としていちばん多いのは、「性格の不一致」だそうです。お互いに自分の価値観が絶対であるという思いから、相手の主張を認められずに関係がこじれてしまい、残念な結果となってしまうようです。

他に上位をしめる原因としては金銭的な問題、暴力、異性関係などがありますが、中でも近年増えているのが精神的な虐待、いわゆるモラルハラスメントです。目に見える原因だけではなく、心の奥深くで進行する、当人でなければ分からない難しい問題が夫婦間で増えているのです。

天理教教祖・中山みき様。私たちは「おやさま」とお慕いしているのですが、教祖はある時、桝井伊三郎さんに、

「伊三郎さん、あんたは、外ではなかなかやさしい人付き合いの良い人であるが、我が家にかえって、女房の顔を見てガミガミ腹を立てて叱ることは、これは一番いかんことやで。それだけは、今後決してせんように」と仰せられました。 (教祖伝逸話篇137「言葉一つ」)

相手が自分の意に沿わないと腹を立て、ガミガミと叱ってしまう。程度や状況によっては、今であればモラルハラスメントに当たるかもしれません。
教祖は伊三郎さんに対して、「これは一番いかんこと」「今後決してせんように」と、滅多に使われない強い表現で戒めておられます。教祖が、いかに夫婦の日常の在り方を大切にされていたかという証しでしょう。

この他にも、教祖は結婚についてしばしばお諭しくだされています。

ある縁談をお許しになるに際しては、「心の美しいのを見て、やる」と仰せられました。心のあり方が結婚の大きな条件であるとのお諭しです。(教祖伝逸話篇 6「心を見て」)

あるお見合いの席では、「神様は、これとあれと、と言われる。それで、こう治まった。治まってから、切ってはいかん。切ったら、切った方から切られますで」と、神様の深い思わくあっての縁談であることを仰せになりました。(教祖伝逸話篇 32「女房の口一つ」)

また、一度離縁し、再婚した女性が傷を負った際には、「縁の切れ目が、命の切れ目やで。抜け出したいと思うてたら、あかんで」と戒められました。(教祖伝逸話篇 156「縁の切れ目が」)

現在は、三組に一組が離婚する時代です。原因は様々で、周りが推し量ることはできませんが、別れてもお互いが持っている心の課題が解決するわけではありません。遅かれ早かれ、自分の心と向き合わなくてはならない時が必ずやってくるのです。

(終)

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