(天理教の時間)
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第1280回2024年5月3日配信

そこにある幸せ

山本達則先生 IMG_1557
山本 達則

文:山本 達則

第1261回

自分の心に寄り添う

いくらポジティブに考えても、心の不安を払拭できない。そんな時は、その不安な気持ちを大事にしてみては?

たいしよく天のみこと

 

神様は、人間が陽気ぐらしをするのを見て共に楽しみたいと、この世界と人間をお造りくだされた、私たち人類の親であります。そして今も昼夜を分かたず、この世界の隅々から私たち一人ひとりの身体に至るまで、一切のご守護をくだされています。

教えでは、この神様のご守護を十に分け、それぞれに神名をつけて説き分けられていますが、そのうちの「たいしよく天のみこと」については、「出産の時、親と子の胎縁を切り、出直しの時、息を引きとる世話、世界では切ること一切の守護の理」と教えられています。

赤ちゃんはお腹の中では、母親とへその緒でつながっていて、そこから栄養と酸素を与えられています。そして、この胎縁が切れると、赤ちゃんはオギャーと産声をあげ、自力で呼吸を始めます。これが息を引きとるまでずっと続くわけです。つまり、最初に自力で呼吸をする時と、最後に息を引きとる時、誕生と死において、私たちはこのたいしよく天のみことのお働きを頂いているのです。

一般に、誕生はめでたいことですが、死は何か暗い、忌まわしいものだと考えがちです。しかし、天理教では、死は「出直し」であり、魂は生き通しで、また新しい身体をお借りして、この世に生まれ替わってくると教えられています。つまり、死はそれで終わりというものではなく、生まれ替わるための一つの節目、新たな出発点でもあるということです。

言うまでもなく、死がなければ誕生もあり得ません。死ぬ者がいなくて、生まれる者だけがどんどん増えれば、世界はたちまち人であふれてしまいます。この生命の循環ということを考えれば、誕生と死は一つであり、切り離すことのできないものであることが分かります。

さらに、死と並んで「切る」という言葉にも、何となく良くないイメージがあります。しかし、「みかぐらうた」の中で、

「六ツ むほんのねえをきらふ」

「八ツ やまひのねをきらふ」(二下り目)

と、争いや病を根絶しようと仰せられる通り、切ることも、私たちにとって大切なお働きです。

長い患いや悩みをたすけて頂きたいと願う時、それまでと同じ心遣いや通り方をしていては、ご守護を頂くのは難しいでしょう。自らの癖性分を断ち切り、心を生まれ変わらせるほどの大きな決断をしなければなりません。斯様に、「切る」働きとは、人生の節目において必要不可欠なものなのです。

 


 

自分の心に寄り添う

奈良県在住・臨床心理士  宇田 まゆみ

先日、大勢の人の前でお話をさせて頂く機会を得ました。少ない人数でも緊張するのに、何百人という人の前でお話をさせて頂くことになり、その日が近づくにつれ、緊張と不安が募ってきました。そんなに大勢の前でうまくお話ができるだろうか、頭が真っ白になって言葉に詰まってしまったらどうしよう、などと考えると不安は膨らんでいきます。

そんな時に私が今までよくやってきたのが、ポジティブシンキングです。不安を打ち消すために、「これもいいことだ!」と、自分に言い聞かせるのです。

ただ、そのように頭で考えて不安から目を逸らそうとすると、不安がなくなったような勘違いをしますが、決して無くなってはいないのです。これもいいことだと頭で考えながらも、心の中では不安が渦巻いている。頭の声と心の声にギャップがある状態です。しかも自分としては、もう不安は払拭できたと思い込んでいるのですから、これはなかなか厄介です。

人は何か辛いことに直面すると、それが早くなくなって欲しいと思うものです。身体の痛みもそうですが、悩みごとや人から否定されるようなことがあると、嫌な気持ちになります。その気持ちを直視するのが辛いので、仕方がないと割り切ったり、これにも何か意味があるんだ、これで良かったんだと気持ちを切り替えようとします。そうして苦しみから逃れているようでいて、実のところは強く苦しみを握ってしまっているのです。

私が大勢の人の前で話すことへの不安を抱きながら、それを直視するのが辛くて、「これもいいことだ!」と言葉にした時、横にいた主人からこんな風に言われたのです。

「それ、自分の気持ちを飛ばし過ぎじゃない?不安なんでしょ? 不安に思っている自分の気持ちを、もっと大事にしてあげた方がいいよ」。

私は狐につままれたような気持ちになりました。しかし、よく振り返ってみると、私はこれまで自分の気持ちを大事にするということを、ほとんどしてこなかったことに気づきました。ポジティブシンキングによって、無理に頭で切り替えて、心の声に蓋をしていたのです。

主人にそのようにアドバイスを受け、自分の感じている不安に自分で寄り添ってみることにしました。

自分の心の声に耳を傾けると、「不安だな、怖いな、うまくいくかな、大丈夫かな」など、色んな気持ちが出てきます。その気持ちを否定せず、そのまま受け止めて、「そうだよね、不安だよね、怖いよね、分かるよ、そう思うよね」と自分自身に語りかけ、100パーセント自分の気持ちに寄り添ってみたのです。

それまでは、「不安とか怖いとか思っていても仕方がない。気持ちを切り替えていこう」と考えて、あまり丁寧に向き合うことはありませんでした。そこを敢えて、まるまる自分の心の声に寄り添った時、何とも言えない安心感が出てきたのです。

人は何か悩みや問題を抱えた時、誰かに相談したくなります。カウンセリングの現場にいると、そのようにして相談に来られる方と多く出会わせて頂きます。その時感じるのは、悩みや問題を相談しに来た方は、何より安心感を得たいのだということです。

たとえ問題が解決しなくても、話を聞いてもらい、分かってもらえたという安心感、自分はこれでいいんだ、一人ではないんだという安心感を得ることで、物事の見え方もその後の展開も大きく変わります。

実際に、私は自分の心の声に100パーセント寄り添った時、何とも言えない安心感に包み込まれ、不安が不安ではなくなりました。そして、今までとはちょっと違う心の声が出てきたのです。

まず出てきたのは、「そんなに大勢の人の前で話す機会を頂けるなんて、すごくない?」という声で、続いてそれに答えるように、「確かにすごいよね。自分がいくらしたいって言っても、なかなかできるものではないもんね」

さらに、その心の声にそのまま寄り添っていくと、心の底からじわじわと喜びが湧いてきて、「ほんとにすごい!そんな機会を頂けるなんて、本当に有り難い!」との感謝の声になったのです。

そして当日も、感謝の気持ちで精一杯、自分のできる限りのお話をすることができ、うれしい楽しい体験をさせて頂くことができました。

人は皆、幸せになりたいと思っています。幸せになるために毎日の色んな体験があるのだとしたら、不安や恐怖、怒りや悲しみなど、幸せとは遠く離れた感情からも、きっと幸せにたどり着くことができます。

その秘訣は、自分の心の声にそのまま寄り添うこと。この時に大事なのは、良い悪いの判断をせず、まずは100パーセント受け入れることです。それができた時、自分の内側から安心感が湧いてきます。そして、その安心感が自分を幸せへと導く力になってくれるのです。

(終)

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