第1398回2026年8月7日配信
一番効果的な伝え方は?
山登りがブームだ。頂上に着き、視界が開けた時の気持ち良さは格別。さて、この気持ちを人に伝えるには…?
心に吹く風「一番効果的な伝え方は?」
山滴る…。いまの時期を表す、俳句の夏の季語です。山を歩いていると、みずみずしい新緑の木々が、空いている空間を探すように葉を広げています。下から見る若葉は太陽の光に透かされて、いっそう色鮮やか。特に雨に洗われた直後の山は、空気までしっとりと湿気を帯び、呼吸を通して身体中を潤してくれるようです。
近年、山登りがブームのようで、テレビ番組や雑誌の特集などでもよく目にします。登山する若い女性を「山ガール」などと呼んで、ファッション誌のグラビアを飾ることもしばしばです。
大人気の登山。山に登ったことのある人なら、経験がおありでしょう。最初は平らに近かった道が、だんだんと急な上り坂になっていきます。そのうちに、登山道が岩や石ころだらけになって、歩きにくくなります。ちょっと足を踏み外すと、崖から落ちるかもしれません。一歩一歩、慎重に少しずつ山道を登っていきます。しだいに体もきつくなって、息が荒くなり、汗びっしょりになります。
そうして迎える登頂の瞬間。頂上に着き、視界が開けたときの気持ちの良さは格別です。それまでの道中が苦しければ苦しいほど、吹き抜ける風が心地よく、つらさがいっぺんに吹き飛ぶくらいの爽やかさを感じます。これが山登りの一番の醍醐味と言えるでしょう。山登りをしたことのない人に、この気持ちよさを伝えたくて仕方がない、と思うのではないでしょうか。
ここで、ちょっと考えてみていただきたいのです。この爽やかさを誰かほかの人に伝えたいと思ったら、どうしたら一番伝わるでしょう。
「とっても気持ちがいいんだよ。風が心地よくて、景色がきれいで…」と、話して聞かせるのもいいでしょう。「ねえねえ、見てみて。これが頂上から見た景色だよ」と、写真を見せるのもいいかもしれません。話だけよりも効果的に伝わることでしょう。
しかし、それよりももっと、ちゃんと伝わる方法があります。なんでしょう?
それは、一緒に山に登ることです。言葉も要らない。写真も要らない。ただ一緒に山に登るだけ。どんな言葉よりも、どんな写真よりもうまく、山登りの楽しさ、素晴らしさを伝えることができます。一緒に山に登って、同じ苦労を味わって、頂上で「ほらね! 素晴らしいでしょう?」と言うだけで、すべてが伝わるのです。
中国の古い言葉に、「聞かざるは之を聞くに若かず。之を聞くは之を見るに若かず。之を見るは之を知るに若かず。之を知るは之を行うに若かず。学は之を行うに至りて止む」(『荀子』)とあります。聞かないよりは聞いたほうがいい。聞くよりは見たほうがいい。見るよりは頭で理解したほうがよく、それよりも一番いいのは実行してみることである、という意味でしょうか。
口で伝えるよりも、目に見せて伝えるよりも、体験を通して伝えるほうが効果的であるという事実。現在では具体的な研究も進んで、「体験学習」という形となって、教育活動にも積極的に取り入れられています。
子供に大切なことを教えたいときは、一緒にやってみるのが効果的です。教えるほうにしてみたら、口で説明したり、書いたものや写真を見せたりするより手間はかかりますが、一番確実に伝わる方法です。見るだけでは、お話を聞くだけでは分かりにくいことでも、教えられた通り実際に行動してみたらよく分かる、ということがたくさんあります。
天理教の教祖、中山みき様は、人間が幸せになる具体的な方法を、口で話され、また書き物に記されたばかりでなく、自らの行動でもお教えくださいました。
教祖は、いまではお姿を見ることも、お話を聞くこともできませんが、自分の思いを伝えるのに最高の方法で道筋を残してくださったのです。それを私たちは、すべての人間の生き方の手本という意味で「ひながた」と呼んでいます。
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