(ラジオ天理教の時間)
次回の
放送予定

第1214回2023年1月21日・22日

偶然か?神様か?

目黒和加子先生
目黒 和加子

文:目黒 和加子

第1130回

門出のスーツ

里子のK君が晴れて社会人になった。教会に来てから6年、悩み、迷いながら共に歩んだ日々だった。

門出のスーツ

 滋賀県在住  池戸 剛

 

私の教会では、父の代から長年里親活動をしており、今まで多くの子供たちをお預かりしてきました。現在も小学生から高校生まで6人の里子を預かっています。そのうちの一人、K君が今年の春、高校を卒業し、社会人として門出を迎えたことは、私たち夫婦にとって感慨深いものがあります。

K君が教会に来たのは今から6年前、小学6年生の時でした。両親の虐待によって児童相談所での一時保護を繰り返し、最後は自ら警察へ駆け込んで保護され、教会へ来ることになりました。

当初は朝起こしに行くと、「今日は…学校やめとく!」という具合で、それまであまり学校にも行っておらず、基本的な生活習慣も身についていない様子がうかがえました。

K君は自ら施設で暮らしたいと言ったものの、教会で初めて生活することへの不安に加え、親や友達に会えない寂しさも感じていたでしょう。そんな、やるせない気持ちを正直にぶつけるあまり、教会内でのトラブルや学校でのケンカなどが絶えませんでした。

当時、私たち夫婦は里親になったばかりで、K君の言動をなかなか受け止めることができませんでした。何か起きるたびに学校へ事情を聞きに行ったり、ご迷惑をかけた生徒さんや親御さんへお詫びに行くことを、正直腹立たしく思っていました。

K君とは、まともな話し合いになりません。経験の少ない私たち夫婦は、どうしたらいいか分からず、K君を養育していくのは無理かもしれないと悩んでいました。自分たちが親から育ててもらう中で培った物差しは、もはやK君には通じません。「こうあるべき」という信念が、音を立てて崩れていくようでした。

それでも心に決めたことがあります。
「今は虐待で受けた傷を、膿として出している時かもしれない。きっと苦しいんだろう。神様が教会へと引き寄せてくださった大切な子なんだから、とにかくひたすら付き合おう」と。

そう決めてから、不思議と少しずつK君の活躍する姿が出てきました。というより、私の心に映る見え方が変わったのかもしれません。部活動でサッカーに打ち込む姿や、教会の鼓笛隊で楽しそうにドラムを叩く姿がカッコよく見えてきました。泣いている赤ちゃんに、オルゴールをかけて寝かしつけてあげる優しい一面も発見しました。

また、生活面でも進歩が見え始め、朝食をしっかり食べるようになり、学校へも休まず行けるようになってきました。K君には人を寄せつける魅力があり、いつも大勢の友達に囲まれていました。中学を無事卒業した後は、高校へ進学。教会から自転車と電車を乗り継ぎ、毎日頑張って通ってくれました。

しかし、一見、学校や教会での生活が落ち着いたように見えても、問題がなくなるわけではありませんでした。男女の問題や交通事故を起こしたり、ある時は台風で電車が止まっているからと、自転車で60キロの道のりを彼女に会いに行き、みんなを心配させたこともありました。

担任の先生から電話をいただいては、私も用事を切り上げてたびたび高校へ謝罪に行きましたが、ある日、友人に度が過ぎたいたずらをしてしまい、ついにK君と私は一緒に校長室へ呼び出されました。校長先生の正面に立つと、生活指導の先生から「気をつけ!礼!」と勇ましい号令がかかりました。「このたびは大変申し訳ございませんでした」と、二人揃ってお詫びをすると、5日間の停学処分を言い渡されたのでした。

帰りの車中で、さっそく反省会です。
「何でこうなったんだろう?」と私が聞くと、「こんな大ごとになると思わなかったんだよ」とK君。「ちょっとしたいたずらだったかも知れないけど、その行為で相手はどんな気持ちになり、どんな結果を招くのか? それは社会的に見た時にどうなのか? ということをもうちょっと想像しないといけないな」と言うと、

「ホント、ごめんなさい」。
知らない間に、K君なりに反省し、自分を振り返ることができるようになっていました。そして、お互いに真剣に思いをぶつけ合いながら、私もK君を許せるようになったのです。

高校卒業を間近に控え、里親としての委託措置が解除される時期が近づき、教会へ来た経緯や生活の振り返りが行われました。その上で、措置が解除された後も教会で生活をしたいと、本人から申し出がありました。

それまでは、K君の両親との連絡には児童相談所を介していましたが、措置解除後もお預かりすることから、私たち夫婦は初めて両親と面会することになりました。

お母さんは、「今のあの子を見ていると、真っすぐに育ってくれていることがホントに嬉しくて。感謝しています」と、涙を浮かべて話してくださいました。

「私たちも6年お預かりしてきて、お父さんとお母さんが子育てが大変だったことはよく分かります」と言いながら、私も涙ぐんでいました。

両親の目に、K君の姿がどう映っているか想像がつかず、私たち本位の育て方になっていないだろうかと不安に思っていましたが、「これからもよろしくお願いします」と言ってくださり、将来的に一人暮らしを目指すK君を、みんなでサポートしようということになりました。

入社式を控えたある日、私はK君が運転する車に乗っていました。

「スーツ買わないといけないなあ」と私が言うと、
「たぶん入社式の日しか着る時がないから、剛兄ちゃんのスーツ貸してくれない?」と言います。
「オレのスーツでいいの?じゃあ、後で一回着てみるか」

帰ってさっそく着てみると、ピッタリ。

「じゃあ、そのスーツあげるよ。そう言えばそのスーツ着て、いつも学校やあちこちへ謝りに行ってたんだよ」
「そっかぁ。そのスーツを今度はオレが着るなんて。不思議な感じだね」

二人で大笑いしました。

神様が私たちに預けてくださった大切なK君と、共に喜びを分かち合える日を迎えられたことに、感謝の思いでいっぱいです。

そして、
「世話さしてもらうという真実の心さえ持っていたら、与えは神の自由(じゅうよう)で、どんなにでも神が働く。案じることは要らんで」(教祖伝逸話篇 86「大きなたすけ」)と、天理教教祖・中山みき様「おやさま」が仰せくださるように、これからも子供たちや苦しさを抱える方々と生活を共にしながら、陽気ぐらしに向かって歩んでいきたいと思います。

ラジオ天理教の時間専用プレイヤーでもっと便利にもっと身近にラジオ天理教の時間専用プレイヤーでもっと便利にもっと身近に

おすすめのおはなし