(天理教の時間)
次回の
更新予定

第1279回2024年4月26日配信

欲しい愛情のかたち

宇田まゆみ
宇田 まゆみ

文:宇田 まゆみ

第1130回

門出のスーツ

里子のK君が晴れて社会人になった。教会に来てから6年、悩み、迷いながら共に歩んだ日々だった。

門出のスーツ

 滋賀県在住  池戸 剛

 

私の教会では、父の代から長年里親活動をしており、今まで多くの子供たちをお預かりしてきました。現在も小学生から高校生まで6人の里子を預かっています。そのうちの一人、K君が今年の春、高校を卒業し、社会人として門出を迎えたことは、私たち夫婦にとって感慨深いものがあります。

K君が教会に来たのは今から6年前、小学6年生の時でした。両親の虐待によって児童相談所での一時保護を繰り返し、最後は自ら警察へ駆け込んで保護され、教会へ来ることになりました。

当初は朝起こしに行くと、「今日は…学校やめとく!」という具合で、それまであまり学校にも行っておらず、基本的な生活習慣も身についていない様子がうかがえました。

K君は自ら施設で暮らしたいと言ったものの、教会で初めて生活することへの不安に加え、親や友達に会えない寂しさも感じていたでしょう。そんな、やるせない気持ちを正直にぶつけるあまり、教会内でのトラブルや学校でのケンカなどが絶えませんでした。

当時、私たち夫婦は里親になったばかりで、K君の言動をなかなか受け止めることができませんでした。何か起きるたびに学校へ事情を聞きに行ったり、ご迷惑をかけた生徒さんや親御さんへお詫びに行くことを、正直腹立たしく思っていました。

K君とは、まともな話し合いになりません。経験の少ない私たち夫婦は、どうしたらいいか分からず、K君を養育していくのは無理かもしれないと悩んでいました。自分たちが親から育ててもらう中で培った物差しは、もはやK君には通じません。「こうあるべき」という信念が、音を立てて崩れていくようでした。

それでも心に決めたことがあります。
「今は虐待で受けた傷を、膿として出している時かもしれない。きっと苦しいんだろう。神様が教会へと引き寄せてくださった大切な子なんだから、とにかくひたすら付き合おう」と。

そう決めてから、不思議と少しずつK君の活躍する姿が出てきました。というより、私の心に映る見え方が変わったのかもしれません。部活動でサッカーに打ち込む姿や、教会の鼓笛隊で楽しそうにドラムを叩く姿がカッコよく見えてきました。泣いている赤ちゃんに、オルゴールをかけて寝かしつけてあげる優しい一面も発見しました。

また、生活面でも進歩が見え始め、朝食をしっかり食べるようになり、学校へも休まず行けるようになってきました。K君には人を寄せつける魅力があり、いつも大勢の友達に囲まれていました。中学を無事卒業した後は、高校へ進学。教会から自転車と電車を乗り継ぎ、毎日頑張って通ってくれました。

しかし、一見、学校や教会での生活が落ち着いたように見えても、問題がなくなるわけではありませんでした。男女の問題や交通事故を起こしたり、ある時は台風で電車が止まっているからと、自転車で60キロの道のりを彼女に会いに行き、みんなを心配させたこともありました。

担任の先生から電話をいただいては、私も用事を切り上げてたびたび高校へ謝罪に行きましたが、ある日、友人に度が過ぎたいたずらをしてしまい、ついにK君と私は一緒に校長室へ呼び出されました。校長先生の正面に立つと、生活指導の先生から「気をつけ!礼!」と勇ましい号令がかかりました。「このたびは大変申し訳ございませんでした」と、二人揃ってお詫びをすると、5日間の停学処分を言い渡されたのでした。

帰りの車中で、さっそく反省会です。
「何でこうなったんだろう?」と私が聞くと、「こんな大ごとになると思わなかったんだよ」とK君。「ちょっとしたいたずらだったかも知れないけど、その行為で相手はどんな気持ちになり、どんな結果を招くのか? それは社会的に見た時にどうなのか? ということをもうちょっと想像しないといけないな」と言うと、

「ホント、ごめんなさい」。
知らない間に、K君なりに反省し、自分を振り返ることができるようになっていました。そして、お互いに真剣に思いをぶつけ合いながら、私もK君を許せるようになったのです。

高校卒業を間近に控え、里親としての委託措置が解除される時期が近づき、教会へ来た経緯や生活の振り返りが行われました。その上で、措置が解除された後も教会で生活をしたいと、本人から申し出がありました。

それまでは、K君の両親との連絡には児童相談所を介していましたが、措置解除後もお預かりすることから、私たち夫婦は初めて両親と面会することになりました。

お母さんは、「今のあの子を見ていると、真っすぐに育ってくれていることがホントに嬉しくて。感謝しています」と、涙を浮かべて話してくださいました。

「私たちも6年お預かりしてきて、お父さんとお母さんが子育てが大変だったことはよく分かります」と言いながら、私も涙ぐんでいました。

両親の目に、K君の姿がどう映っているか想像がつかず、私たち本位の育て方になっていないだろうかと不安に思っていましたが、「これからもよろしくお願いします」と言ってくださり、将来的に一人暮らしを目指すK君を、みんなでサポートしようということになりました。

入社式を控えたある日、私はK君が運転する車に乗っていました。

「スーツ買わないといけないなあ」と私が言うと、
「たぶん入社式の日しか着る時がないから、剛兄ちゃんのスーツ貸してくれない?」と言います。
「オレのスーツでいいの?じゃあ、後で一回着てみるか」

帰ってさっそく着てみると、ピッタリ。

「じゃあ、そのスーツあげるよ。そう言えばそのスーツ着て、いつも学校やあちこちへ謝りに行ってたんだよ」
「そっかぁ。そのスーツを今度はオレが着るなんて。不思議な感じだね」

二人で大笑いしました。

神様が私たちに預けてくださった大切なK君と、共に喜びを分かち合える日を迎えられたことに、感謝の思いでいっぱいです。

そして、
「世話さしてもらうという真実の心さえ持っていたら、与えは神の自由(じゅうよう)で、どんなにでも神が働く。案じることは要らんで」(教祖伝逸話篇 86「大きなたすけ」)と、天理教教祖・中山みき様「おやさま」が仰せくださるように、これからも子供たちや苦しさを抱える方々と生活を共にしながら、陽気ぐらしに向かって歩んでいきたいと思います。

 


 

地球環境と熱中症

 

熱中症は今に始まった症状ではありませんが、この言葉が一般に認知されるようになったのは割と最近のことです。その危険性に対する認識は、異常気象が年々進むにつれて一般に広がっていきました。地球規模の温暖化と、身近な日常生活における熱中症は、遠いようで近い関係にあると言えます。

急激な気温の変化に、私たちの身体はすぐには適応できません。これは現代の都市環境にも共通していることで、ゲリラ豪雨や強い台風の襲来にインフラが対応できず、混乱を招きます。人間の身体の弱さと、高度に複雑化した社会の脆さが一気に浮き彫りになってしまうのです。

地球規模の温暖化に対しては、国際社会全体での取り組みが必要です。しかし、すべての国が足並みを揃えるのは容易ではありません。環境に配慮し、CO2削減などに積極的に取り組んでいる国もありますが、経済を優先させる国もあり、また、エネルギーや資源を使い、これから豊かな社会を目指そうとする国もあります。

かつて、「世界でいちばん貧しい大統領」と言われた、ウルグアイの元大統領ホセ・ムヒカさんの国連でのスピーチが大きな反響を呼びました。それは、エネルギーや物を大量消費・大量廃棄することによって、幸福や豊かさを追求する現代人に警鐘を鳴らす内容でした。

彼は言います。「貧しい人とは、少ししかものを持っていない人ではなく、もっともっとと、いくらあっても満足しない人のことだ」と。

天理教教祖・中山みき様「おやさま」は、

 よくにきりないどろみづや 
 こゝろすみきれごくらくや(「みかぐらうた」十下り目 4)

と教えられています。
エネルギーや物を大量消費し、豊かさを際限なく追求するような生き方は、慎みをもって神様の与えを生かしていく暮らし方に逆行するものと言わざるを得ません。

教祖は、また、

「世界は、この葡萄のようになあ、皆、丸い心で、つながり合うて行くのやで」(教祖伝逸話篇135 「皆丸い心で」)

とも教えられました。

地球環境の分野で言われる「持続可能な社会」の実現には、私たち人類が、神様を親と仰ぐ「一れつきょうだい」であるとの自覚のもとに、慎みの心を持って互いにたすけ合うことが必要なのです。

(終)

天理教の時間専用プレイヤーでもっと便利にもっと身近に天理教の時間専用プレイヤーでもっと便利にもっと身近に

おすすめのおはなし