(天理教の時間)
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第1279回2024年4月26日配信

欲しい愛情のかたち

宇田まゆみ
宇田 まゆみ

文:宇田 まゆみ

第1109回

家族を見る目

親は、子供の「望ましくない行動」ばかりに目が行ってしまいがち。「望ましい行動」に目を向ける努力を。

家族を見る目

奈良県在住  金山 元春

 

先日、自宅で炊飯器を使おうとした時のことです。いつもは炊飯器の左側にある差込口に電源コードを差すのですが、その日はなぜか炊飯器の右側に視線が向かいました。すると驚いたことに、そこにも差込口があったのです。

わが家は数年前に引っ越したのですが、以前の住まいでは炊飯器の左側にだけ差込口があったので、そのように思い込んでいたのですね。思い込みとは恐ろしいものです。確かにそこにあるものが見えなくなるのですから。

こうした「あるはずのものが見えていない」という出来事については、他にも経験があります。

数年前、月極の駐車場を探していた時のことです。その時は、車を運転していても、散歩をしていても、駐車場ばかりが目に入り、町じゅうに駐車場があふれているように感じられました。
ところが、ちょうど良い駐車場が見つかり、契約した途端、その他の駐車場は私の目に留まらなくなりました。

妻が妊娠していた時もそうです。
町を歩いていると、「あ、妊婦さんだ」と町じゅうに妊婦さんがたくさんいるように感じられました。へこんだ道路や大きな段差を見つけたりすると、「妊婦さんはここを通るのは危険だなあ」と、とても気になったものです。
ところが妻が無事出産し、子供が大きくなった今では、妊婦さんを見かけることは少なくなり、道路の状態もほとんど気にならなくなりました。

しかし、これは当たり前の話ですが、わが家の駐車場が見つかった途端に町の中の駐車場が減ったわけではありませんし、私の妻が出産したからといって妊婦さんの数が急に少なくなったり、道路が整備されたわけでもありません。
私がそれらのものに「関心」を持たなくなっただけのことです。

どうやら私たち人間は、目の前の実態をカメラのようにありのままに捉えているわけではなく、自らの思い込みや関心によって、この世界を自分が見たいように見ているようなのです。

これは人に対しても同じです。
親というのは、どうしてもわが子のダメなところが目について、ダメ出しが多くなりがちです。それは「悪いところは早く直してやりたい」という親心からであって、わざと探しているわけではないでしょう。
けれどもほとんどの場合、ダメ出しをすればするほど、子供の態度はかえって頑なになります。

その結果、親は子供のダメなところが一層目について、さらに強い口調でダメ出しせざるを得なくなる、という悪循環に陥ります。
もしもカメラでその子の一日を録画できれば、再生された画面には「がんばってるな」と思える行動もたくさん映っているはずなのですが、「この子はダメな子だ」と思い込んでいると、それらの行動はまったく見えなくなるのです。

私は、子育てには「2本のアンテナ」が必要だと思います。これは心理学や教育学を専門とされる曽山和彦(そやま・かずひこ)博士から教わったことです。

2本とは、子供の「望ましい行動」と「望ましくない行動」のいずれにもアンテナを立てるという意味です。
大人は子供の望ましくない行動に対しては、敏感に反応しますが、望ましい行動に対しては、当たり前とみなして何も反応しません。これでは、悪循環の渦は大きくなる一方です。この悪循環から脱出するためには、子供の望ましい行動に目を向け、子供を認める言葉を増やす必要があります。

ある学校の先生は、この話を知って、次のような実践をされました。
以前なら当たり前と見なしていた生徒の行動を、丁寧に一つひとつ取り上げて「ありがとう」と伝え続けたそうです。
すると、「教室の雰囲気が本当に変わった」と言います。
「特に何が変わりましたか?」と私がたずねると、先生は「そもそも指導すべきことが少なくなったのですが、指導が必要な時でもそれが子供たちに伝わりやすくなりました」と即答しました。

人から何かを言われて「その通りだな」と素直に思えるかどうかは、話の内容はもちろんですが、それを誰から言われるかにもよります。
実際、A先生に言われれば納得して動けるのに、同じことをB先生に言われても納得できないということがあります。そこにあるのは、「A先生は信頼できるが、B先生は信頼できない」という信頼感の差でしょう。

たとえば、黒板を掃除している生徒の行動を「当たり前」と見なさずに、「ありがとう。たすかるよ」と感謝を伝える。
授業中の生徒の発言に対して、必ず「ありがとう」と伝えてから次の展開へ移る。
そうしたことの積み重ねが、「この先生は自分のことを見てくれている。自分のことを認めてくれている」という、生徒の先生に対する信頼感を生むのでしょう。
そして、そのような信頼関係から、「この先生の言うことには耳を傾けよう」という素直な態度が生まれるのだと思います。

このように、教育や子育てには2本のアンテナが必要ですが、大人のアンテナはどうしても子供の望ましくない行動に偏りがちです。

そのバランスをとるには、最初はかなり意識して子供の望ましい行動に注目する必要があります。
これまでは当たり前と見なしていたようなことでも、その一つひとつに、「ありがとう」「うれしい」「たすかるよ」と伝えてみてください。お子さんの行動は少しずつ変わり始めるはずです。
そうなると、こちらの子供を見る目も変わり、さらにその子の良いところが見つかる、という好循環が生まれます。

この話は親子に限ったことではありません。夫婦でもきょうだいでも、家族がお互いの良いところを見つけて、相手を勇ませるような優しい言葉を伝え合うことが、家族円満の秘訣だと思います。

ただ、こうして偉そうなことを言っていますが、私自身は反省することが多い日々です。家族に冷たい視線を向けて、厳しい言葉をかけてしまう時もあります。そんな時に思い出すのが、神様の次のお言葉です。

 むごいこゝろをうちわすれ
 やさしきこゝろになりてこい (「みかぐらうた」五下り目 6)

このお言葉をかみしめ、家族の良いところに目を向けて、「ありがとう」「うれしい」「たすかるよ」と、優しい言葉をかけ続けていきたいと思います。

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