(天理教の時間)
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第1279回2024年4月26日配信

欲しい愛情のかたち

宇田まゆみ
宇田 まゆみ

文:宇田 まゆみ

第1176回

神様からのお年玉

元里子から、教会を出て一人暮らしを始めたいと相談が。心配な面もあるが、まずは彼の気持ちを聴くことに徹した。

神様からのお年玉

滋賀県在住  池戸 剛

 

昨年、年の瀬も押し迫った頃、「ちょっと二人に相談があるんやけど、今晩時間ありますか?」と、元里子で教会に住んでいる社会人一年目のK君が、仕事先からLINEを送ってきました。

K君は高校を卒業し、里子としての措置が解除された後も教会に残りたいという本人の思いから、引き続き共に生活をしています。昨年春から、琵琶湖の水質を管理する会社に勤めていて、およそ一年間、一日も欠勤することなく頑張っています。

K君が「相談がある」と言ってくる時は、喜ばしい報告ではないことが多く、ビックリするような問題を次々に持ってきて、その度に私たちは驚かされ、悩んだことも数多くありました。

これまで、彼の無謀な考えに対して、「あかん!」と頭ごなしに許さないこともありました。すると、「なぜ分かってくれないんだ!」と彼が怒りを表し、お互いにモヤモヤした気持ちを引きずることを何度も繰り返してきました。「それはおかしい」という思いを伝えようとしても、彼にはなかなか届きませんでした。

そんなやり取りを繰り返しながらのK君との生活も、もう七年が経ちました。彼自身の成長に伴い、様々な問題を共に乗り越えてきたこともあり、お互いにそれなりの信頼を抱くようになりました。

こちらの思いを一方的に伝えようとしたところで、それは逆効果かもしれないと思い、「こんなことを言ってくるかな?」とか、「こう言ってきたらどう答えようか」などとあらかじめ考えず、気持ちをフラットにして、まずK君の思いを全て聴かせてもらい、否定せずに受け止めようと心がけています。

その元は、天理教教祖・中山みき様「おやさま」の親心にあります。教祖は、寄り来る人々をいつも温かい親心で、「よう、帰ってきたなあ」とお迎えになりました。

ある時、大雪の中を帰って来られたご婦人には、「難儀やったなあ。その中にて喜んでいたなあ」と仰せられ、冷え切った手をしっかりと握られたのです。また、人々に対して「何々しなさい」とは決して仰せにならず、常にその人の目線で問いかけ、気持ちを受け止めてくださる逸話が数多く残されています。

そんな温かく包み込んでくださる親心にふれたら、どう感じるでしょう? 私は「ああ、教祖について行きたいなあ」と、いつも感じるのです。

K君は、「今度、初めてボーナスもらうんやけど、その使い方どうしよっかなあって、ちょっと考えてるんやけど…」と切り出しました。私は内心、「わざわざ使い方の相談に来るなんてエライな」と、ビックリしました。

K君の希望は三つ。一つ目はスマホの機種変更。二つ目はバイクの中型免許を取る。そして三つ目は、一人暮らし。

一人暮らしはまだ心配な面もありますが、それは口には出さず、「三つともするのは金銭的にどう? 優先順位とかはあんの?」と聞くと、「そうやねん。全部は無理やと思ってて。だから一人暮らしかなあ」と。

まあ、実際にやってみた上での失敗だったら、自分でも納得して、そこから学ぶこともできるか。こちらからサポートできることもあるだろうし…。

「そうか、一人暮らしすることに反対はしないで。自分の中で、よし、準備できた、頑張ってみよう!って思ったらオレは協力するで。ただ、もうすぐ夜勤が始まるやろ。生活のリズムが変わるから、そこが気になるけどな。今すぐ出たいの?」

「ん~、どうしても出たいわけじゃないんやけど。今出ないと出れなくなるかなあって思ったり。ほら、ここにいたらみんなもいるし、ご飯の心配もないし。安心やし、いいんやけど」

すると横で聞いていた妻が、「Kは、きっと一人暮らしできると思うねん。うちでの生活が嫌だって言うなら受け止めるけど、そうじゃないなら、今すぐじゃなくてもいいんじゃない?」と。

続いて私が、「教会にはいつまで居てもいいで。一人暮らしを始めてからも、続かないなあと思ったら、また帰ってくればいいし。それで、また頑張ってみようと思ったら、始めてくれたらいいんやで」と言うと、彼の表情が少し緩んだように見えました。学校を卒業し、仕事も順調にいっているので、そろそろ教会を出ないといけないのではと、K君なりに心配していたのかもしれません。

K君のように、里親家庭や児童養護施設で暮らす「社会的養護児童」は、全国に約四万五千人います。これまでも多くの子どもたちが18歳で自立を求められ、里親家庭や施設から卒業していったのです。

そこからは自分で生活費を稼がなければならなくなった若者が、経済的な理由や、体力的、精神的な不調から進学を諦めたり、進学や就職をしても長続きしないといったケースが多いのです。

私自身が同じ年の頃を振り返ってみても、金銭的なことを含め、何かにつけて親の手だすけがあり、大切な決断をする時に、自分一人で全てを決めることなんてとてもできませんでした。やはり、人生の節目に立つ若者には、頼れる親や大人の存在が必要なのです。

K君は、何だか安心したような面持ちで、「んじゃあ、今回はスマホの機種変更だけにするわ」と言って、相談は終わりました。

年が明けて、元旦のことです。K君は教会に住む10人の子どもたちや、参拝に来た子どもたち一人ひとりに、何とお年玉を用意していたのです。これにはやられました。

それまでお金を自分のことにしか使わなかったK君が、初めてのボーナスで子どもたちを喜ばせてくれたのです。K君も、子どもたちから次々に「ありがとう」と言われ、それまでとはひと味違った喜びを感じたことでしょう。

私は、子どもたちの名前が書かれたかわいいポチ袋を見て、「お年玉のことなんて言うてなかったやん!」と、ちょっと大人になったK君の姿に涙が出ました。

この時いただいた喜びは、私たち夫婦にとって、神様からのお年玉のようなものでした。

「神様、ありがとうございました」

 


 

手間暇をかけて味わう喜び

 

近年、アナログレコードの人気が再燃しています。日本国内のレコードの生産額は、2010年には1億7000万円まで落ち込んだものの、2020年には21億円を超え、この十年間で十二倍に増えました。アメリカでは2020年、34年ぶりにレコードの売り上げがCDを上回りました。

世界的ブーム再燃の背景には、長年レコードに親しんできたオールドファンはもとより、特に20代を中心とする若い世代に人気が広がっていることがあります。

かつて音楽業界の主役だったレコードが、その座をCDに奪われてから久しく、さらに時代が進んだ今では、CDに替わりインターネットでの音楽配信が主流となっています。月1000円ほどの定額制による、スマートフォンの聴き放題サービスが若者を中心に定着しています。

一方、レコードは、CDと比べても価格帯が1・5倍ほど高くなり、聴くためにはレコードプレーヤーも必要です。なぜ、このようなレコードが人気なのでしょう。理由はいくつかありますが、その中でも「手間をかけて音楽を聴く体験が心地よい」という声が多いといいます。指先の操作一つで簡単に音楽が聴けるデジタルの利便性とは正反対の体験が、若者にとって新鮮な魅力と映っているようです。

ICT、情報通信技術を活用したサービスが普及し、欲しいものが安く手に入る世の中になっても、お手軽には味わえない体験に価値を見出す人が少なくないようです。

現代の私たちの生活は、さまざまな技術の発達に伴い、利便性が高まっています。信仰においても少なからずその恩恵はあり、信仰生活にもさまざまに影響を及ぼしています。しかし、手間をかけ、じっくりと時間をかけなければ味わえない信仰の喜びは確実にあります。

天理教教祖・中山みき様「おやさま」は、

「価を以て実を買うのやで」(教祖伝 322頁)

と仰せられます。
神様のご守護をいただくには、それ相応の真実のつとめによる「価」が必要であるとの教えです。

価を得るための、特別な近道などありません。日々、手間暇をかけ、ご守護をいただく喜びを深く味わいたいものです。

(終)

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