(天理教の時間)
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第1279回2024年4月26日配信

欲しい愛情のかたち

宇田まゆみ
宇田 まゆみ

文:宇田 まゆみ

第1101回

心つながるお父さんのだし巻き

娘に背中を押されて始めた里親活動。家族みんなで協力し、週末里親として中学生の女の子を迎えることができた。

心つながるお父さんのだし巻き

京都府在住  辻 治美

昨年の話ですが、大学に通う娘から「お父さん、お母さん、里親になってほしい」と突然言われました。
4人の子を授かった経験を活かして、いつか里親にならせてもらえたらとは思っていましたが、その気持ちを娘には話したことがなかったので、突然のお願いに驚きました。

娘に理由を聞いてみると、里子として育てられたという友人の話をしてくれました。その友人は家庭の事情から、赤ちゃんの時に里親の元に引き取られたのですが、今日まで温かな家庭で育てられて幸せだったことや、自分も将来は人の役に立つ仕事をしたいという夢を娘に語ったそうです。
娘はその友人の姿に、「里親って素晴らしい!」と感動し、「うちならきっと、お父さんとお母さんと一緒に里親活動ができる」との思いでお願いしてきたのでした。

娘の純粋で熱い思いを聞き、親元を離れた高校の寮生活で様々な境遇の友人と出会い、人のために何かをしたいという心を育てて頂きありがたいなあ…と感動しました。
「よし!里親にならせてもらおう」と言いたかったのですが、我が家の状況を考えると、すぐに返事は出来ませんでした。

同居している主人の母はALS・筋委縮性側索硬化症という進行性の難病を患い、車椅子の生活を送っています。また三男の道都(みちと)は、重度の障害があり寝たきりです。毎日家族みんなで二人のお世話をしていて、とても里子を受け入れる余裕はありません。

正直にそのことを話したのですが、娘は「私、家のこと何でもするから絶対里親になってほしい」と懇願するのです。その強い気持ちに背中を押され、夫婦で里親登録だけでもさせてもらおうと覚悟が決まりました。今は無理でも、登録していればいつか里子を受け入れられるかもしれないという思いからでした。

早速、児童相談所に申し込むと職員の方が来られ、今の我が家の状況でも可能な「一時保護」という短期の里親制度について説明してくださいました。
「保護の依頼が来ても、すぐに受け入れができない時は正直に言ってください」と優しく言われ、何でも相談できるという安心感を持ちました。

その後、夫婦で研修に参加し、里親の方から経験談を聞かせて頂きました。30年以上里親経験のある70代の男性は、ひょうひょうとこう言われました。
「なんにも特別なことはしていません。ただ一緒に食事をし、テレビを見て、お風呂に入り、一緒に寝る。そんな普通の暮らしをしてきただけです」
里親は大変だと思い込んでいた私は、このお話を聞き、肩からスーッと力が抜けるのを感じました。

養護施設での実習も無事終わり里親として登録されると、ある日、児童相談所から電話がありました。それは週末里親の依頼でした。

週末里親は、養護施設などに入所中で、親との面会や帰宅の機会が少ない子供たちを、月一回から二回程度家庭に迎え入れます。家庭生活を味わい、自分に関心を持ってくれる大人の存在を身近に感じることは、子供たちにとって将来の自立へ向けた貴重な経験となります。

早速家族みんなで会議をしました。
子供たちも「月に1、2回なら大丈夫」と賛成してくれ、依頼を受けることになりました。里親活動ができるのはまだまだ先だと思っていましたが、我が家のこの状況でも里子を迎え入れることができるとは、本当に有り難いお話でした。

我が家に来てくれる里子は中学生の女の子、Aちゃん。家庭の事情で今は養護施設で暮らしています。
Aちゃんが来てくれる日、うちの名物である「おばあちゃんのだし巻き」を一緒に作ろうということになりました。今はおばあちゃんが作ることはできませんが、主人がしっかりとその味と技を受け継いでいるので、名前を「お父さんのだし巻き」に変えて準備をしました。もう一品は子供たちが大好きなラーメンです。

時間になり、Aちゃんが職員さんと一緒に我が家に到着しましたが、緊張しているのか玄関から中に入ろうとしません。娘と中学生の息子に声を掛けられ、ようやくうちに入りました。

しばらく子供同士でゲームやアニメの話をしているうちに、Aちゃんの緊張がほぐれていき、みんなでだし巻きを焼くことになりました。
主人はエプロンを着けて大張り切りで、つやつや熱々の焼き立てだし巻きをAちゃんに出すと、「おいしいー!」と喜んでくれました。

「私も焼いてみたい」とAちゃんも挑戦し、主人から卵を巻くコツを教わりながら、上手にだし巻きを焼いてくれました。Aちゃんのはにかんだ笑顔を見ていると、私たち家族みんなの心が優しさで満たされていくようでした。

天理教の教祖「おやさま」は、「人たすけたら我が身たすかる」と教えられました。
家庭生活の経験が少ないAちゃんのこれからの幸せのために週末里親を受けさせて頂きましたが、逆にAちゃんが私たち家族の心を優しくしてくれる経験となりました。

先日、Aちゃんのお誕生日に、みんなでケーキにデコレーションをして、ロウソクを立てて歌を歌い、お祝いをしました。Aちゃんは「こんなに祝ってもらうのは生まれて初めて」とつぶやいていました。

娘に背中を押され、里親登録をしたおかげで世界が広がりました。Aちゃんに出会えたことで、私たち家族の幸せな時間が増えています。
これからも肩の力を抜いて、普段の生活の中で与えて頂いている幸せを感じ、Aちゃんと一緒に喜びながら過ごしていけたらと願っています。

 


 
男女の特性

二年前、初めての出産と旦那さんの転勤が重なったAさん。慣れない土地での生活と育児は想像以上に大変で、元来明るい性格のAさんが自宅に引きこもるようになってしまいました。

旦那さんは寡黙なタイプで、常に冷静沈着な人。Aさんが悩みを相談すると、正論を述べて解決を迫ってきます。Aさんにしてみれば、欲しいのは解決策ではありません。
「慣れない土地で、子育てを頑張ってくれてありがとう」という感謝の一言があれば、それで十分なのです。Aさんの旦那さんに対する不満は日々募るばかりでした。

転機となったのは、娘さんが生後三か月経った時のこと。普段は気遣いなどしない旦那さんが、初めてブーケをプレゼントしてくれたのです。「これ、長持ちするみたいだから。少しは気分転換になるかな…」

きれいに飾られたフラワーアレンジメントを見て、Aさんはこれまで溜まっていた嫌な気分がスーッと抜けていったと言います。「どうすれば元気になるか」を旦那さんが親身になって考えてくれたことが、ひしひしと伝わってきたのです。

その後は旦那さんの話を素直に聞けるようになったAさん、アドバイスを受けて近所の人と交流を持ち始め、少しずつ明るさを取り戻していきました。

天理教で朝夕につとめる「おつとめ」の中に、

 このよのぢいとてんとをかたどりて
 ふうふをこしらへきたるでな
 これハこのよのはじめだし

というお言葉があります。
ここでは、夫婦の役割を女性は地、大地の地、男性は天にたとえてお話しくだされています。男性は物事を大所高所から見て、理性的に判断する。女性は大地の如く大らかに、優しく包み込むような心で、人と人とをつないでゆく。お互いがこの役割を全うすることで夫婦が治まり、明るい家庭が築けるのだと教えてくださいます。

女性からすれば、男性の言葉足らずのところに不満を感じることがあるかもしれませんが、いざという時の優しさも、また男性ならではのものです。
Aさんは旦那さんの優しさにふれ、あらためて夫婦の役割について思案し、女性らしく人と人とをつないでいけるよう、温かい言葉や愛情をかけていくことを心に誓ったのです。

(終)

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