おやのことば 11月8日

小学生のころ、鍵をかけられる筆箱が流行したことがありました。さまざまな形式の筆箱が売り出され、皆が競うようにして新製品を買い求めました。

私自身は、磁石が仕込まれた鍵を近づけて、施錠・開錠する形式の筆箱が欲しくて、文具店へ何度も足を運びました。でも、新製品は従来のものに比べて値段が高く、なかなか買ってもらえません。

「皆が持っているから」と母親を説得し、ようやく意中の筆箱を手に入れたときの喜びは、いまもよく覚えています。

「近い所から一つ人がこうすれば我がもこうと必ず持たず、世界見て我がにたんのう」

手に入れたときのことは覚えていますが、その後の筆箱の行方については思い出せません。磁石を仕込んだ鍵は早々にどこかへ行ってしまい、ほどなく学校で筆箱を見せ合うこともなくなりました。何か新しいものが流行すると、いつもこのことを思い出します。

自ら子育てをするようになって、買い物で子供が駄々をこねるときには、簡単なゲームなどをして、目の前にある品物のことを数分間忘れさせると、そのうちに「欲しい」という気持ちが薄れることを知りました。

「自分にとって本当に必要なものは何か」。大人になっても、問い直す機会は必要です。朝夕に自らを見つめ直す時間があることは、本当にありがたいことですね。(岡)

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