
家の戸締まりをして車に乗り込み、エンジンをかける。行き交う車に注意を払いながらハンドルを切り、幹線道路に出たところで不意に「裏口の鍵を閉めただろうか……」と、不安になることがあります。
一人で運転しているときは「たぶん大丈夫」と考えて、そのまま進んでいきますが、助手席に妻がいるときは、必ず「本当に大丈夫?」と聞き返されます。本当に大丈夫なのか、と問われると確信はありません。
「いや、どうだったかな……」などと歯切れの悪い返事をするうちに、ついには途中で引き返すことになります。
「案じては案じの理を回る。案じは要らん、と、大きな心を持ちて理を治め」
人間の記憶は百パーセント確実ではありません。だから、あらためて記憶を確認されると不安になります。
また、次に起こる出来事を予測することはできません。だから、現在の行動が本当に正しいのかどうか、あらためて問いただされると、それに答えることは難しい。
曖昧な記憶をもとに、先の不安を抱えながら、現在を生きている人間が本当に安心するためには、間違いのない道を通っているという確信が不可欠でしょう。でも、自分を頼りにするだけでは、「本当に大丈夫」という確信は得られません。
だからこそ、今日も原典をひもとくのです。(岡)