
「宿題が終わったら、おひなさまを飾るよ」「はーい」。玄関先から、帰宅した妻と娘の会話が聞こえてきました。
妻が生まれたときに買いそろえたという古いひな人形は、首が横に傾いたものや、小道具がなくなってしまったものも少なくありません。それでも、一応「七段飾り」がそろっています。何年間も押し入れの奥で埃をかぶっていましたが、娘が生まれてからは毎年飾るようになりました。
今日も夕食を終えてから、二人で楽しそうに人形を並べています。ところが、どうしてもおひなさまの首が真っすぐになりません。「もう限界かな」「大丈夫、お父さんより長生きするよ」などと不穏な会話も聞こえます。どうやら、妻は孫の代まで人形を引き継ぐつもりのようです。
「道は一代限りと更に持つな/\。末代という理聞き分け。代々続く。末代に残る」
親から子へ、子から孫へ。引き継ぐべきものは、たくさんあるでしょう。でも、形のあるものは、いつかは消えていきます。子供や孫たちに私たちが残してやれるものとは、本当は何なのでしょう。
毎日のおつとめの大切さと、親神様のご守護を感じて生きることの喜び。ひな人形を飾っている部屋に祀った、小さなお社に手を合わせながら、この二つを伝えられるような親でありたい――そう願いました。(岡)