(天理教の時間)
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第1280回2024年5月3日配信

そこにある幸せ

山本達則先生 IMG_1557
山本 達則

文:山本 達則

第1258回

ランドセルを通して思ったこと

次男のために、ランドセルをフリマサイトで安く購入。教祖の「すたりもの身につくで」とのお言葉が心にあった。

いまできることから
(2021年6月発売『すきっと36号』より)

 

通勤路の途中のある民家の近くで、いつも三匹の猫を見かけた。その家に住む年配の女性が、餌をくれるのを待っているようだった。あるとき、その女性が入院した。猫たちは、その後もじっと待っていたが、冬が来る少し前に姿を見せなくなった。いまごろどうしているだろう。私にできることはなかったか……そんなことを考えていたら、ふと、マザー・テレサの言葉が頭に浮かんだ。

「家に帰って家族を愛してあげてください」

貧困や病気で死にかけている人々を看取る施設「死を待つ人々の家」の活動などが評価された彼女は、一九七九年、ノーベル平和賞を受賞した。その際、記者からの「世界平和のために、私たちはどんなことをしたらいいですか」との質問への答えが、このシンプルな言葉だった。

「外へ目を向けるのは大切なこと。でも、その前に私はまず、うちの猫や家族をもっと大切にしなければ……」

私たちが人生で出会う人は限られている。その一人ひとりを大切に思って接することは重要だ。何より、一番身近な家族が「ただそこに存在してくれている」ことに感謝し、愛することは最も大切なことだと、あらためて思う。

コロナ禍で、自宅に家族が居合わせる時間が長くなった。父親がリモートワークで在宅し、イライラしてDVが増えたと聞くと、胸が痛む。

私の実家は農家で、子供のころ、雪深い冬は父親も家にいて、囲炉裏のそばでムシロや背負いかご、草履などを作っていた。いたずらが過ぎるとゲンコツをもらったが、何回せがんでも嫌がらずに絵本を読んでくれた。テレビもなかったので、夜は家族全員でトランプを楽しんだ。

神様はいま、家族のありようを見直すようにと言われているのではないかと思う。社会の基本単位である家族が睦み合って暮らせぬようでは、世界たすけなど到底おぼつかない。つい、わがままが出やすい家庭は、陽気ぐらしの修行道場ではないかと、このごろ思っている。

私は四十年間、重症の患者さんの看護に携わってきた。現場の看護師は、いつも「もっと良い看護を実践しなければ」と焦り、理想と実際との狭間で心を倒すこともある。
そんなとき、

「きょう担当する患者さんに、できるだけ喜んでもらえる看護を実践することに集中しよう! それを繰り返していたら、はっと気がつけば、いつの間にか多くの人を救っていたことになる。あのマザー・テレサも、そうやって生きてこられたそうよ」

と慰める。すると
「そうか、それでいいんですよね!」
と、少し元気になってくれる。

例年なら、看護協会会長として、県内の看護学校の入学・戴帽・宣誓・卒業などの式典で祝辞を述べるのだが、この一年間は規模縮小で招かれていない。

「コロナ禍だから……」と言い訳して、何もしないでいることもできる。が、それでは使命は果たせない。いまできることは何か、と考えた。そこで、コロナ禍で十分な実習ができないまま、不安を抱えて卒業する看護学生に、ビデオメッセージでエールを送ることにした。

内容は、新人看護師が忘れてはならない三つの大切な心得。


自分の行為の一つひとつが人の命に関わっていることを忘れず行動し、どんなに忙しくても、注射などは最後の詰めをしっかりと確認し、責任の持てる状態で実施すること。


患者さんに負担をかけるので、決して一人で無理をせず、不安が強いときや「いつもと違う」と思ったときは、すぐ判断のできる上の人に直接、見てもらうこと。


担当する患者さんに心から関心を寄せて声をかけ、何かの処置で病室に行ったら、立ち去る前に、「ほかに何か、心配なことや御用はありませんか」と、ひと言聞くようにすること。

DVDにメッセージを託し、県内の全看護学校に郵送した。

届け! 看護のこころ。

 


 

ランドセルを通して思ったこと

               和歌山県在住  岡 定紀

 

今回は、次男が小学校に入学する前の話をしたいと思います。

小学生になると、子供たちはランドセルを背負って登校しますが、そのランドセル、結構いい値がします。六年間使うものだから丈夫に作られているわけですが、値段は数万円します。

我が家は天理教の教会で、教祖「おやさま」の「すたりもの身につくで」という教えを胸に生活しています。すたりものとは不用になったもののことで、身につくとは、ここでは魂に徳をつけるという意味になるかと思います。つまり、ものを大切に使うこと、使い古しのものでも丁寧に使わせて頂くことが、幸せになっていく元であると教えられているのです。

そこで、少しでも節約をして、次男の魂に徳をつけさせてやりたい。そして将来、世のため、人のために働く人間になってもらいたい。そんな思いで、インターネットのフリーマーケットのサイトで、中古のランドセルを安く買えないかと検索していました。

すると、全国から出品されたランドセルの一覧がずらっと表示されるのですが、「現地に取りに来てくれる人」という条件がほとんどでした。その中で、「奈良県天理市 1000円」という表示が目に飛び込んできました。しかも男の子用の黒いランドセルで、「新品カバーも付けます」とあります。ただ、画面で確認すると、6年間使ったせいで少し横に傷が入っていました。

私は全国の市町村からの出品リストの中で、天理という場所が目に飛び込んできて、しかも破格の安さということに、何か神様のお働きを感じました。夜分遅くでしたが、その出品者の方にメールを送ると、すぐに「天理のスーパーの駐車場で引き取りをお願いします」と返信が来ました。

そして、「どちらにお住まいですか?」と聞かれたので、「実は和歌山に住んでいるのですが、天理教の信者なので天理にはしょっちゅう行きます。ついては、それまでお取り置きできないでしょうか」と返信すると、「そちらが来れる日で大丈夫ですよ!」とのことでした。

「ただ、六年間使っていますし、傷も入っているので心配です。大丈夫でしょうか」とあったので、私は「すたりもの身につくで」という教祖の教えを元に、「いえいえ、美品でなくても、かえって子供に徳をつけさせてやれると、夫婦共々喜んでいます」と送りました。

すると最後には、「やはり天理教様の教えは素晴らしいですね。私も同じ親として頭が下がります」と返信してくださったのです。

思いがけず、教えを伝える機会にもなったのだなあと、しみじみ感じ入っていると、その時、不思議なことが起きました。寝ていた次男が突然、起きてきたのです。

次男は三歳頃から半年に一度ぐらい、夜中に突然目を覚まし、大声をあげながら動き回ることがありました。最初は怖い夢を見たのだと思い、「大丈夫やで。お父さんとお母さんがそばにいるからな」と、明るい部屋でなだめるのですが、10分近くわめいたりするのです。その都度、神殿に連れて行き、神様にお願いをさせて頂いていました。こういうことがあったので心配していたのです。

そして、この時もまさにそのパターンの起き方だったので、また動き回って大声を出すと思い、部屋から出て行かないように抱きかかえようとしました。すると、いつもと様子が違い、その場にしゃがみ込んで、何も言わずに一分ほどジッとしてから、また布団に戻っていったのです。「こんなこと初めてやね」と、妻と目を合わせました。

後日、天理のスーパーの駐車場で、相手のお母さんと待ち合わせて、ランドセルを頂きました。お母さんは改めて「徳を積む」という教えに感じ入ったようで、「そう言えば天理小学校の子って、中古のランドセルを使っている子が多いですよね。皆さん大事に使っていて、あれは天理教の教えによるものなんですね。私も生き方を考え直します」と言ってくださいました。

それ以来、次男が突然起きてくるという症状は無くなりました。あの日、魂に徳を積ませてやりたいと実行に移したことと、症状の治まりが立て合ったことに、神様の深い思召しを感じました。このことを忘れず、将来、子供が自ら徳を積んでいく人生が歩めるように、親として育てさせてもらいたいと思います。

(終)

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