(天理教の時間)
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第1291回2024年7月19日配信

「生き方が分からない」と嘆く少年

家族円満 中臺眞治
中臺 眞治

文:中臺 眞治

第1289回

へその緒は曲者

「へその緒は曲者や。気抜いたらあかんで!」との先輩助産師の厳しい仕込み。それを出産現場でたびたび実感した。

へその緒は曲者

助産師  目黒 和加子

 

「先生、指が折れます!」

「指が折れても押せ!絶対に抜くなよ!」

手術室に向かうストレッチャーに乗っているのは、膝を付き、うつ伏せでお尻を高く上げた「膝胸位」という体勢をとっている産婦と、産婦の足の間に入り込んでいる私です。私は産婦の子宮口に右手の人差し指と中指を突っ込み、胎児の頭を必死で押し上げているのです。

なぜ、こんなけったいなことになっているのでしょう。

後藤さんは一人目、二人目ともに3,500グラムを超える赤ちゃんを出産した経産婦。明け方に陣痛が来て入院しましたが、痛みが弱くお産が進みません。昼前に熱を測ると37度6分。

「熱が出てきたか。感染が進む前に促進剤を使ってお産にした方がいいかな。診察して決めるわ」と困った顔の浜田先生。後藤さんを内診台に乗せ、内診を始めました。

「子宮口6センチ開大。頭の位置が高い。朝9時と同じ所見や。一人目も二人目も大きかったから産道はめっちゃ広いわ。それにしても羊水が多いなあ…」と言ったその時、バッシャーと破水。おしもを見ると、ニョロニョロしたへその緒が垂れ下がっているではありませんか。破水の勢いで出てきたのです。

「先生、臍帯が出てます!」

浜田先生はギョッとした顔で、後藤さんを素早く膝胸位にさせ、「目黒さん!指で頭を持ち上げろ! 臍帯の血流を遮断させるな!」と、真顔で指示を出しました。

私は素早く右手の人差し指と中指を直径6センチに開大した子宮口に突っ込み、胎児を押し上げました。次に先生はナースステーションに向かって、「臍帯脱出や!緊急帝王切開!」と、大声で叫んだのです。

一斉にスタッフが集まってきて手術の用意を始め、あっという間に準備が整いました。そして、後藤さんと私をストレッチャーに乗せ、急ぎ手術室へ。冒頭のけったいなシーンへと続きます。  

後藤さんは痛くもかゆくもないので、「へその緒が出ちゃったのね。帝王切開ですか。よろしくお願いします」と、まるでピンときていません。

先輩助産師が後藤さんに張り付き、穏やかな口調で声をかけつつ胎児心拍を聴いています。しかし、口調とは逆に先輩の手は震えていました。

赤ちゃんはオギャーと産声をあげることで、肺呼吸へと劇的に変化します。それまでは、胎盤からへその緒を通る血管を経由して酸素をもらっています。へその緒は酸素をもらう命綱。この命綱が赤ちゃんと産道の間に挟まると血流が遮断され、完全に息の根を止められてしまいます。先生が「指が折れても押せ!絶対に抜くなよ!」と、私にカツを入れた理由はここにあります。

後藤さんと私はストレッチャーから手術台に乗せ替えられ、すぐに腰椎麻酔がかけられました。後藤さんを仰向けにし、麻酔が効いたことを確認した浜田先生は、「メス、三刀で出すぞ」と呟くと、予告通り三回メスを入れただけで、あっという間に子宮から赤ちゃんを取り上げたのです。

この時、お股から胎児の頭を持ち上げている私の指先と、切開した子宮の中から赤ちゃんを取り上げる先生の指先が、コツンと触れるのを感じました。赤ちゃんはすぐに産声をあげ、元気いっぱい。私は手術台から降りると、へなへなと床にへたり込んでしまいました。

「目黒さんがしっかり持ち上げてくれたから、元気に産まれたで。ご苦労さん。あとで指のレントゲン撮ろう。折れてたら労災やな」と浜田先生。骨折はしていませんでしたが、しばらくお箸が持てませんでした。

真夏の熱帯夜に起きた臍帯脱出も、思い出すと背筋が寒くなります。

その日は夜勤。夕方、出勤すると陣痛室には経産婦の小田さんがいました。真夜中に分娩室に入ったのですが、胎児が下がってきません。

「子宮口は8センチ開いているのになあ。この状態で破水したら臍帯脱出の可能性があるわ。当直医に連絡しておこう」と思った途端、バーン!と音を立てて破水。お股からへその緒が垂れ下がっています。恐れていた臍帯脱出が起きたのです。

その日の当直医は、大学病院の若手の産科医でした。急ぎ内線で呼ぼうと分娩室の扉を開けると、目の前に当直医が立っているではありませんか。

「先生、臍帯脱出しました!8センチ開大の経産婦なので、すぐに全開大させます。吸引分娩してください!」

「あの~、吸引分娩に自信がないので院長を呼んでください」

「なにを言うてるんですか。そんな時間はない!すぐに吸引カップ用意してください!」

後ずさりする医師を、分娩室に引っ張り込みました。

不安そうな顔の小田さんに、「今の破水でへその緒が出てきたの。へその緒は赤ちゃんにとって命綱やから、すぐにお産にしないと命に係わる。私が指で子宮口をグリグリして開きます。めっちゃ痛いけど頑張ってや!」とカツを入れると、「痛くても我慢します。赤ちゃんをたすけてください!」と、覚悟を決めた顔に変わりました。

両手の人差し指と中指に力を入れて、子宮口をグリグリねじ開けると、「うわー!いたいー!」。小田さんの絶叫が分娩室に響きます。

オロオロする医師に、「先生、ボーッとしてんと機械に吸引カップつないで!」

 「は、はい」

 「小田さん、全開したからね。吸引分娩するから、陣痛きたら教えてや。先生、早くカップ装着して!」若いドクターのお尻を叩きまくります。

「陣痛きましたー」

「吸って、吐いて。吸って、吐いて。大きく吸って、それ!思いっきり息んでー。先生、吸引圧上げて! カップを上下にゆっくり動かしながら引っ張って!」

間一髪、赤ちゃんは無事に産まれました。

当直医はなぜ、分娩室の前にいたのか。そこには職員用の冷凍庫があり、暑いのでアイスキャンディーを取りに来たとのこと。

「先生、落ち着いたのでアイスキャンディー食べてもいいですよ」

「臍帯脱出で背筋が凍りました。アイスは結構です」

青い顔をして当直室に戻っていきました。

へその緒が赤ちゃんより先に出てくるだけで、命に係わるのです。新人の頃、先輩助産師から「へその緒は曲者や。気抜いたらあかんで!」と厳しく習いました。先輩の教えを噛みしめ、胸に深く刻み込みました。

 


 

だけど有難い 『奇跡』

 

奇跡というものは、山のようにあると思うのです。現に、河原町大教会の祭典後のおさづけの取り次ぎで、「医者に余命二週間と宣告された方がご守護いただいた」「ガンが消えた」「手術をしなくて済んだ」「手術が大変うまくいった」「歩けなかった人が歩けるようになった」「膝が曲がらず座れなかった人が、座れるようになった」といった報告を、毎月のように聞かせていただきます。この教会だけでも、数々の奇跡を見せていただいているのです。

今日は、そういう奇跡の話ではなく、私たちが「いま、ここにいる」という奇跡の話をしたいと思います。驚くようなご守護も奇跡です。しかし、そればかりではありません。むしろ本来、私たちが「いま、ここにいる」ということ自体が、奇跡的なご守護の真っただ中にいるということだと思うのです。

たとえば、私は一歳のときに母を亡くしました。考えてみれば、母の出直しが一年早ければ、私は生まれていないのです。私の母もまた、幼いときに祖母と死別しました。これもわずか数年出直すのが早ければ、母も生まれていません。私の家は信仰して五代目ですが、二代目の徳次郎も、生まれるのとほぼ同時に母を亡くして顔も知りません。五代目の私は、本当に奇跡的に、いま、ここにいるのです。それとても、四代前のこの教会の初代会長を務めた源次郎が信仰してくれたおかげで、こうしているわけで、そうでなければ百数十年前になくなっている家なのです。

さらに遡って、親神様がこの世人間をお創りくださってから今日まで、いったい何人の親がいたのか分かりませんが、その親が一人でも欠けていたら、私はいま、ここにいないのです。私だけではありません。人は皆、自分が全く知らない親がいてくださったからこそ、いまがあるのです。

また、過去から今日までの生命の営みだけでなく、いま、ここにある私たちの体を考えてもそうです。人間の体は、およそ三十七兆個の細胞から成り立っています。しかし、この細胞が全部生きていたらいいというわけでもありません。細胞それぞれの寿命が来たときには、死んでもらわなければならない。たとえば、血液の成分である白血球、血小板、赤血球は、それぞれ寿命が違います。数時間で死んでしまうものもあれば、十日生きるものもある。また、百二十日ほど生きているものもあります。そして、死んでいくものの代わりに、新しいものが生まれてくるから、私たちは生きているのです。

親神様のご守護というものは、本当にきりがないのです。人間をお創りいただいて以来、今日までに、どれほどのご守護を頂いてきたか。いま、ここにいるという事実のなかに、どれほどのご守護があるかと考えたら、どれだけお礼を申しても、し過ぎることはないと思います。

ですから、いま体が不自由で悩んでいる人も、お願いの前に、まずお礼を申し上げていただきたいのです。私たちは病気や事情で悩むと、必死になってお願いします。必死になってすがるというのは大切なことです。このすがってお願いする気持ちと同じくらい、お礼が大切だと思うのです。私たちはつい、それを忘れます。山のようにご守護を頂いているのに、たった一カ所、膝が痛いと、そのことで思い悩みます。まず、親神様のご守護に対するお礼を、しっかりさせていただきたいものです。

そのお礼の仕方を、教祖は教えてくださいました。その第一が、おたすけです。世界中の人は皆、山のようにご守護を頂いていることを知らずに生きています。この教えは、信仰している人だけのものではありません。お道を信仰している者だけが兄弟姉妹ではないのです。世界中の兄弟姉妹に、一日も早く教えを伝え、親神様のご守護に共に感謝してもらえるよう、つとめさせていただきたいと思います。

(終)

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