(天理教の時間)
次回の
更新予定

第1276回2024年4月5日配信

人生最大のラッキー

目黒和加子先生
目黒 和加子

文:目黒 和加子

第1085回

会話

結婚して30年、ほとんど会話のなかったある夫婦。奥さんはご主人の定年退職を機に、突然、離婚を切り出した。

会話

広島県在住  岡本 真季

2月、豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス号」の新型コロナウイルス集団感染のニュースが世間を賑わす中、私はずいぶん前に出会ったご夫婦のことを思い出していました。
そのご夫婦は、旦那さんがエリートサラリーマン、語学も堪能で海外出張も多くバリバリの仕事人でした。奥さんは三歩後ろを歩く控えめで大人しい方でしたが、お子さんがいないこともあってか、多趣味な方で、家の中は手作りのものであふれ、素敵にコーディネートされていました。絵に描いたような、誰もが憧れる素敵なご夫婦でした。

しかし、旦那さんの退職を目前にして、奥さんにある思いが募っていきました。それは、今まで自由気ままにしていた時間を、これからはうちで旦那さんと一緒に過ごさなければならないという不安です。考えれば考えるほど、奥さんの頭の中はぐちゃぐちゃになっていきました。そしてとうとう、「主人が退職したら、退職金を半分もらって離婚する」という答えにたどり着いてしまいました。
周りの友人たちは、離婚した後のことを心配し説得したのですが、奥さんの気持ちは揺らぐことなく、むしろ退職の日が近づくにつれて決心は固くなっていきました。

退職の日、旦那さんは両手に抱えきれないほどの花束を持って帰ってきました。奥さんはいつものように丁寧に旦那さんを出迎え、そして、とうとうあの言葉を口にするのです。
「長い間、お疲れさまでした。あなたにお願いがあります。私にあなたの退職金を半分ください。そして、私と離婚してください」。

旦那さんはどんなに驚いたことでしょうか。ところが、この後の旦那さんの言葉に、奥さんはその何倍も驚かされるのです。旦那さんは、ゆっくりと落ち着いた声で言いました。
「君は、結婚してまだ日も浅い頃、『仕事ばかりで済まないなあ』と詫びた私に、こう言ったのを憶えているかい? 『今は仕方ないわ。でも、あなたが退職したら、世界一周旅行に連れて行ってね』。私は今まで、ずっとその約束を果たすために働いてきたんだ。もうチケットも買ってあるんだよ」

奥さんは行くべきか迷いましたが、キャンセル料の高さと旦那さんの説得もあって、ひとまず旅行に行ってから離婚の話を進めることに決めました。
豪華客船の旅は、ずっと憧れていた夢のような世界でした。半年近い長旅も、旦那さんの最高級のエスコートも手伝って、あっという間に過ぎていきました。

二人は船の中で、結婚以来30年分の会話を楽しみました。会話なく過ごしてしまった30年の間も、二人がどれほどお互いを思いやって暮らしていたか、それを言葉にして確かめ合いました。結果、豪華客船の旅を終えた奥さんが、ふたたび離婚の話を口にすることはありませんでした。

旅から帰って落ち着いた頃、旦那さんに病気が見つかり、しばらくして帰らぬ人となりました。

当時まだ独身だった私に、奥さんは真剣に話してくれました。
「夫婦になったらお互いの関係は空気みたいになって、あうんの呼吸が身について会話はいらなくなる、なんていうのは間違いよ。あうんの呼吸は、毎日の会話なくしては生まれないんだから。私は会話を諦めた時点で、主人に対する興味もなくしてしまった。心でいくら思っていても伝わらない。文句でもわがままでもいいから、言葉でちゃんと伝えなさい」と。

新型コロナウイルスが感染拡大する中、SNSでこんな投稿を見つけました。
「窓口にビニールシートを張って接客していたら、『俺のツバはそんなに汚いのか』と言われたので、『私たちの汚いツバが、お客様にかかってはいけませんので』と答えたところ、『そうか』と、機嫌を直して帰って行ってくれました」
まさに、言葉一つですね。

神様は、私たち人間が互いにたすけ合って陽気に暮らすのを見て、ともに楽しもうと思い、人間をお創りくださいました。「言葉」と「笑顔」は、そのための大切なお与えものです。
また、「声」は「肥」、肥料であると仰せられ、声は相手を喜ばせるためにあり、また相手の心を育てさせてもらうためにあると教えられました。

ダイヤモンド・プリンセス号からは多くの感染者が出てしまい、それを批判する言葉がテレビからひっきりなしに聞こえてきて、関係者の方々はどんなに辛く大変な思いをしていることかと案じていました。
しかし、後になってから、乗客と医療関係者やクルーの間で、思いやりのある会話や感謝のメッセージが交わされていたことを知り、心温まる思いがしました。私たちの想像以上に、船内には優しい会話や笑顔があったのです。

私たちは、朝起きてから寝るまでに、たくさんの声を出して会話をします。その中には、相手の心を傷つけるものもあるかもしれません。言葉は神様が私たち人間に与えてくださった特別なものですから、なおさら使い方に気をつけて、相手に喜んでもらえる言葉を出していきたいと思います。

 


 
怒りをコントロールする

小学三年生の息子さんを叱る時、自分の感情をコントロールできず、怒りに任せて怒鳴ってしまうという父親のAさん。特に息子さんが嘘をついたり、いたずらをごまかそうとした時には、抑えがたいほどの怒りが込み上げてくるといいます。
息子さんは父親が怖くて、家の中では緊張している様子。奥さんは、息子さんを怯えさせるAさんに半ばあきれています。息子さんの心を傷つけてしまっている現状から、どのように子育てを修正していけばいいのか、Aさんは思い悩んでいます。

小学三年生といえば、「ギャングエイジ」と言われる難しい年ごろです。この年で親を手こずらせるのは、むしろ正常な発達段階とも言えますが、親は大変です。Aさんの怒りのスイッチが常にスタンバイ状態にあるというのも、仕方のないことでしょうか。

「厳しくしつけなければいけない」という親としての責任感もあるでしょう。加えて、息子さんの反抗心を抑え込もうという父親としての意地もあるかも知れません。いずれにしても、息子さんに強いストレスがかかっている今の状態を放っておくのは良くありません。嘘をついたり、ごまかしたりするのがいけないということは、息子さんにはもう十分に伝わっているはずです。薬が効いていることを信じて、少し距離をとってみてはどうでしょうか。

天理教教祖・中山みき様「おやさま」は、私たちの日々の心の持ち方について、

「やさしい心になりなされや。人を救けなされや。癖、性分を取りなされや」(教祖伝逸話篇 123)
とお諭しくださいました。

また、良くない心使いを「ほこり」にたとえて教えられる中で、「はらだち」のほこりについて、
「はらだちとは、腹が立つのは気ままからであります。心が澄まぬからであります。人が悪い事を言ったとて腹を立て、誰がどうしたとて腹を立て、自分の主張を通し、相手の言い分に耳を貸そうとしないから、腹が立つのであります。これからは腹を立てず、天の理を立てるようにするがよろしい。短気や癇癪は、自分の徳を落とすだけでなく、命を損なうことがあります」
とお聞かせいただいています。

息子さんもいずれ自分の感情をコントロールできるようになるでしょう。むしろ、Aさんが自分自身の癖、性分に気づき、怒りの感情をコントロールすることが、息子さんにとってのよいお手本になるのではないでしょうか。

あきれた様子の奥さんは、きっと冷静にご主人と息子さんの関係を見ているのでしょう。夫婦でよく話し合うのも解決の近道に違いありません。神様がちょうどいい具合に組み合わせてくださった家族同士、お互いに感謝の気持ちを持って日々を送ることが、関係修復へつながるものと思います。

(終)

天理教の時間専用プレイヤーでもっと便利にもっと身近に天理教の時間専用プレイヤーでもっと便利にもっと身近に

おすすめのおはなし