(天理教の時間)
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第1279回2024年4月26日配信

欲しい愛情のかたち

宇田まゆみ
宇田 まゆみ

文:宇田 まゆみ

第1224回

家族っていいね

「お母さんのイライラは謎だらけ」と娘。私がイライラするのは大抵週末のこと、それなりの理由はあるのだが…。

天の定規

 

天理教教祖・中山みき様「おやさま」をめぐって、こんな逸話が残されています。

教祖はある日、大工の飯降伊蔵さんに、「伊蔵さん、山から木を一本切って来て、真っ直ぐな柱を作ってみて下され」と仰せになりました。伊蔵さんが早速、真っ直ぐな柱を作ると、教祖は、「伊蔵さん、一度定規にあててみて下され」と仰せられ、続いて、「隙がありませんか」と尋ねられました。

伊蔵さんが定規にあててみると、やはり隙間があります。その旨を答えると、教祖は、「その通り、世界の人が皆、真っ直ぐやと思うている事でも、天の定規にあてたら、皆、狂いがありますのやで」と教えてくださいました。(教祖伝逸話篇31「天の定規」)

大工である伊蔵さんにとって、定規は大切な仕事道具の一つです。それが狂っていては仕事になりません。伊蔵さん愛用の定規を当てて作った柱は、人の目からすれば真っ直ぐに見えたに違いないのです。しかし教祖は、「天の定規にあてたら、皆、狂いがありますのやで」とお諭しになりました。

ここで教祖が仰せられたのは、私たちが世間の常識や社会通念、いわば「世間の定規」で真っ直ぐだと思っていること、正しいと考えていることでも、天の定規、すなわち神様の教えに照らしてみればズレがあるということです。

例えば、教祖は、商売を営む人に対しては、「高う買うて、安う売るのやで」(教祖伝逸話篇165「高う買うて」)と再三教えられました。これを聞いた当人たちは、その意味が理解できず、「そんな事をすると、損をして商売にならない」と、初めは納得できませんでした。世間の常識に従えば、問屋から品物を安く仕入れてお客さんに高く売る。そうして、その利ざやを稼ぐのが商売の常道です。

それに対して、教祖は「天の定規」に基づいた商売のあり方を仰せられたのです。問屋からは比較的高く仕入れ、お客さんには出来るだけ安く売る。そして、自らは少ない儲けに満足して通る。これが、自他共に栄える商いの道である、というわけです。

天の定規に照らし合わせれば、世間では通りにくいことや、人から嘲笑されるようなこともままあるでしょう。そんな中でも、常に天の定規に添うよう自らの行動を律することが、長い目でみれば陽気ぐらしへの近道であることを、心したいと思います。

 


 

家族っていいね

 奈良県在住  坂口 優子

 

「いややなあ…お母さん機嫌悪いねんな」

車の後部座席から聞こえてきた、19歳になる娘のお友達のつぶやき。どうやら電話口のお母さんの機嫌が悪かったようです。すると隣で話を聞いていた娘は、私への当てつけなのか、「わかるよ」と言わんばかりに笑い出しました。

実はその数週間前に、我が家でこんなことがありました。その日は主人の機嫌が悪く、プイっと黙って玄関を出ていきました。その様子を見て、娘が「お父さんは何で怒るかスイッチが分からんなあ」と言ったのです。

さすが娘は私の良き理解者!そうそう、お父さんってそういう所あるのよねえ、と喜んだのも束の間、次の一言にやられました。「まあ、お母さんのイライラも謎だらけやけどな」。

思いがけない娘の言葉でしたが、イライラについては心当たりだらけで反論なんてできません。しかし一つだけ言いたいのは、私のイライラは〝謎〟ではなく、いつもちゃんと理由があるということ。

娘の言う、私が「イライラする日」は、たいてい土曜や日曜のみんながお休みの日です。週末はいつもより洗濯物が多いし、休日にしかできない仕事もある。そんな中でも、折角のお休みの日は、みんなでより一層楽しく過ごせるように入念にタイムスケジュールを組み、ママは朝から大張り切りなのです。

「みんな今週もがんばったもんね。週末ぐらい、遅い時間まで布団の中でゴロゴロしていてもいいよ!」最初はそんな風に思っているのですが、そのゴロゴロのせいで朝食の片付けが二度になり、布団を上げる時間が遅くなり、タイムスケジュールが狂い始めると、私の心は曇ってきます。

ところが、みんなはそんなことお構いなしに休日を満喫しています。すると、さっきまでの「いいよ」の感情はどこへやら。

「私だって折角のお休みの日なのに、朝から一人でバタバタしてる。どうして誰も気づいてくれないの?」

次第に心に嵐が吹き始めると、娘の目には、プンスカプンスカと、私の頭から謎の蒸気が上がっているのが見えるのだとか。そうなると、情けないことに、私の怒りを察して手伝ってくれる主人への感謝の気持ちさえ、忘れてしまうのです。

天理教では、神様の思いに沿わない心遣いを「八つのほこり」にたとえて、吹けば飛ぶような小さなほこりでも、そのままにしていると積もり積もって、ちょっとやそっとでは払えなくなると教えらえます。その八つの中には、私が積みやすい「はらだち」のほこりもあります。

私は、娘の思いがけない言葉をきっかけに、些細なことでほこりを積んでしまう自分自身の心を見つめ直すことにしました。そこで、まず自分自身がどうなりたいのかというゴールを設定しました。

この時の私のゴールは、イライラせず、みんなに気持ちよく休日を過ごしてもらうこと。そして、どうしてそれが達成出来ないのかに焦点を置き、イライラする原因を探しました。すると、これだけバタバタしているのだから、普通なら手伝ってくれるだろうと、自分で勝手に人に期待していることに気づきました。

では、ゴールを達成するにはどうすればいいか。私に足りないのは、人に手伝って欲しいと思っている心を素直に認め、その心の内を温かい言葉で伝えること。温かい言葉で伝えれば、腹立ちのほこりも積まずに済むのです。何の言葉も出さずに、自分の心の内を理解して欲しいというのでは、これ以上の無理難題の押しつけはありません。

次の日の朝、ご機嫌斜めの主人に「昨日はごめんなさい」と謝りました。すると、主人は何も言わずに仕事へ出かけていきました。

ちょうどその日は私たち夫婦が入籍した日で、私が坂口優子になってから22年を迎えた記念日でした。

「まだケンカしてるん?」専門学校からの帰り道、車の助手席から娘が聞いてきました。

「ケンカはしてないよ。謝ったけど、お父さん黙ってたから分からんわ。今日はお母さんが坂口になって22年の入籍記念日なんだけどね~」

ちょっと気重にそう言うと、「そうなん?ほなケーキ買おう!私が買うたるから、ケーキ屋さん寄って!」

こうして娘が買ってくれたケーキが食卓に登場すると、「今日は何の記念日や?」とおじいちゃん。「優子ちゃんが坂口になって22年やねんて」と、おばあちゃんもニコニコです。

たまたま次の日仕事が休みだった長男もいて、「あれ?入籍記念日にケーキ?今までこんな日にお祝いしたことあったっけ?」と、不思議そうな顔。

家族が集まると、それだけで喜びがいっぱいになって、主人にもいつの間にか笑顔が戻りました。

「家族っていいね」布団に入った7歳の末娘の言葉が心にしみました。

「家族円満」

毎日がそういうわけにはいかないけれど、我が家は今日も、みんなのあたたかい笑い声によって守られています。

(終)

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