(天理教の時間)
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第1360回2025年11月14日配信

心の姿勢を正そう

家族円満 松村登美和
松村 登美和

文:松村 登美和

第1359回

「TENRI」文化を世界へ

フランスで日本語教育や文化活動を行う天理日仏文化協会。必ずしもスタッフ全員がフランス語に堪能な訳ではない。

TENRI」文化を世界へ

             フランス在住  長谷川 善久

 

最近、私が住むフランスでも日本の移民政策について良く耳にする機会が増えました。これから日本社会が、話す言葉が必ずしも同じではない人々をどのように受け入れていくのか、興味深く見守っているところです。

私が日本人からよく受ける質問に、「フランス語は難しいですか?」というのがあります。私はいつも決まって一言だけ「難しいです」と答えるのですが、すると大概の人が「そうだろうな」と残念そうな表情をします。

そこで私はひと呼吸おいて、「けど、フランス人とコミュニケーションを取るのは楽なものですよ」と続けます。そして「日本人以外の人でも、嬉しい時には笑い、悲しい時には泣きますから」と、分かり切ったことを、あえて深い真理かのように伝えます。

 

ある研究によると、他者とのコミュニケーションで伝わることを全部で100%とすると、そのうち口から出る言葉自体が伝達できるのは、約10%だといいます。つまり、言葉の内容以外の表情、身振りや手振り、話し方や口調などが九割を占めるということになります。

実際私自身も、その割合はともかく、言語コミュニケーションの有効性に限りがあるという説には、経験からしても確かに一理あると思っています。

かくも人間関係とは、コミュニケーションに依存する度合いが高いのですが、その関係が良好であれば、人は他者に対する恐怖心が薄くなり、安心感、幸福感が高まります。その上で、海外生活において言語能力以上に大切だと思う点をあえて二つ挙げるなら、それは相手との違いに興味を持つこと。そして先入観を捨ててオープンに相手を理解しようとする姿勢です。

 

そこに教祖から教えて頂いている「誠真実」の実行があれば、たとえ外国人との間で、少々言葉による障壁や誤解などがあっても、全く恐れるには足りません。

天理教の『信者の栞』には、このようにあります。

「誠真実というは、たゞ、正直にさえして、自分だけ慎んでいれば、それでよい、というわけのものじゃありません。誠の理を、日々に働かしていくという、働きがなくては、真実とは申せません。そこで、たすけ一条とも、聞かせられます。互い立て合い、扶け合いが、第一でございますによって、少しでも、人のよいよう、喜ぶよう、救かるように、心を働かしていかねばなりません」。

積極性をもった対人関係、人と自分を区別しない心。自己の利害や保身を捨て去った行動は、間違いなく言葉のやり取りを超えた万国共通の心のつながりをもたらしてくれます。

 

フランス・パリの中心地に、天理教本部によって設立された「天理日仏文化協会」があります。現地では利用者から「TENRI」と呼ばれ、親しまれている文化センターです。

現在は、活動の中心である日本語教育以外にも、日本の伝統文化や美術、音楽などの紹介もしており、年間の会員数は1000名を超え、民間の日本文化関連団体としては、フランスで最も知られている団体です。

この「TENRI」センターの運営は、現地の布教所長3名が中心となっており、20名を超える未信者の職員を抱えています。それに加えて現場実務の上で重要な役割を担う存在として、天理教本部の青年会、婦人会が実施する「海外日本語教師派遣プログラム」で、日本語教師として二年間派遣されてくる若者たちがいます。

 

授業は全て日本語で行われるものの、フランス語が決して上手ではない派遣生らは、授業外での学生との意志の疎通に苦心しているのが現状です。それでも不思議なことに、出張所で信仰生活をしながら文化協会で教師として勤める彼らのクラスでの評判は、いつの時代の派遣生もトップクラスなのです。

フランス語が上手く話せないことへの不安に対して、私がいつも彼らに話すことがあります。

「君たちはフランス語が上手く話せるわけではない。上手い人をうらやましいと思うかも知れない。しかし、言葉がよく出来ることが悪く作用することだってある。それは、言語能力が高ければ高いほど、自分の本心を隠して、相手をごまかすことが出来るという点だ。君たちは言葉が上手く話せないのだから、真実の心一つで対応するしかない。否が応でも心を磨かせてもらえる、こんなチャンスはないよ」。

日本にいれば言葉巧みにごまかせるようなことも、フランスではそれが出来ないのですから、精一杯心を尽くして誠実な対応をするしかないのです。

 

こうして、今まで味わったことのない環境に戸惑いながらも、彼らが自分自身の内面性について深く見つめ直し、心を鍛える努力を続けるうちに、人間として大きく成長していく姿をこれまで幾度も見てきました。不自由さに負けない努力を積んだ先で、自然と心に力がついていったのです。

また、外国で暮らしていると、それまで考えても見なかったことに気づかされることが多々あります。

例えば日本語の特性についてもそうです。ある時友人から、他人をけなしたり非難するフランス語の日本語訳を聞かれたことがありました。友人は次から次へとフランス語の単語を出してくるのですが、私の日本語訳は五つもすれば、あとは毎回同じものになってしまいました。日本語には、人を非難する語彙が少ないのです。

また、会社に勤めながら日本語を学んでいる女性に、「なぜ日本語を勉強しているのですか」と聞いたところ、「日本語で話をしている時の方が、普段フランス語で生活している自分よりも、穏やかで優しい人になれている気がするんです」と、全く予想もしない答えが返ってきたこともあります。

非難する言葉が少ないことや、話すだけで気持ちが優しくなるなど、日本語の新しい面が感じられ、誇らしく思いました。

 

天理教の教祖「おやさま」はいつどんな時も、子供に対しても、どのような人に対しても、いつも優しい言葉遣いであったと聞きます。日本語自体が持つ特性がどうあれ、私たちはいつ誰に対しても優しい言葉を投げかけ、自分の心にも優しさが満ちていくように努めたいものです。

ある日、文化協会の来館者の一人から、「TENRIセンターに入ると、何だか空気が澄んでいるような気がする」と言われたことがありました。不意な言葉にその場は聞き流してしまいましたが、後からじわじわと喜びが湧いてきました。

これからも天理日仏文化協会は、教内の理解と支援を頂きながら、もっともっと心に安らぎと優しさが湧きあがる「陽気ぐらしの場」であり続けたいと願っています。


 

だけど有難い「心の健康」

 

平成二十九年の総務省の発表によると、日本で九十歳以上の人が初めて二百万人を超えて二百六万人になったそうです。これはすごい数字ですね。いまから十三年前の平成十六年に、初めて百万人を超えました。それからわずか十三年で百万人増えて、ほぼ倍になったことになります。

さらに遡って昭和五十五年、いまから約四十年前に、九十歳以上の人がいったい何人いたと思いますか。わずか十二万人です。それがいまは二百六万人。ものすごい増え方だと思いませんか。私たちの世代からすると、生きている間の出来事です。その間に、十二万人が二百六万人になったのですから、すごい変化です。

平均寿命も延びて、厚生労働省の発表では、男性は約八十一歳、女性は八十七歳。どちらも世界第二位とのことです。第一位は両方とも香港ですが、人口が少ないですから、実質は日本が〝世界一〟と言えるでしょう。

 

しかし、喜んでばかりもいられません。寿命には「健康寿命」というものがあります。これは、健康で元気に暮らせる平均年齢です。日本人では男性七十一歳、女性七十四歳。ということは、単純に男性は平均寿命の八十一歳までの十年間、女性は八十七歳までの十三年間は、病気をしているという話です。つまり、長生きになったけれど、その分、病気をしている期間も長いということが言えそうです。

元気で長生き、これは結構です。病気で長生き、果たしてこれはどうなのか。九十歳以上の人が増えたといっても、そのなかには、ベッドの上でただ死ぬのを待っているような状態の人、大変な病気を抱えて長年苦しんでいる人、周りの人の介護のおかげでなんとか生きている人、あるいは体は元気だけれども、家族に先立たれ、友人や知人もみな先に逝ってしまい、孤独で嘆き悲しんでいる人など、さまざまな人がいると思います。ですから、二百六万人が九十歳を超えたのは確かにすごいことですが、必ずしも喜んでばかりはいられないのです。

二、三日前に、ガンの患者が百万人を超えたと発表がありました。同時に、日本人の二人に一人はガンになるとも述べられていました。九十歳以上の二百六万人のなかにも、ガンで苦しんでいる人はかなりいるのではないでしょうか。そう考えると、二百六万という数字は、表面上は幸せな数字であるけれど、悲しい数字も含まれているということになります。

 

私が今日お話ししたいのは、「心の健康」についてです。健康寿命というけれど、それは体の話です。一番大事なのは心の健康です。九十歳まで、いきいきとした心で生きているかどうか。実は、これが一番大事なのです。私たちは、どんななかも喜んで通ることのできる「陽気ぐらし」の心づかいを知っています。こんな有難いことはないのです。九十歳まで長生きする人が増えたといっても、それを「有難い」「結構や」と喜んで通っている人が、果たしてどれだけいるでしょうか。これには統計がありません。

有難いことに、私たちは、心いきいきと生活させていただける術を教えていただいている。そのことを、しっかり喜ばせていただいて、報恩感謝の実践に励ませていただきましょう。(終)

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