エースの重圧乗り越え悲願の世界選手権初V(9月9日)

■2010年9月16日

〝天理柔道〟貫き 名実ともに世界一

天理大職員の穴井隆将選手

“日本のエース”の重圧を乗り越え、世界の頂点に堂々輝く 。柔道の各階 級世界一を決める「世界柔道選手権2010東京大会」が、9日から13日にかけて東京都渋谷区の国立代々木体育館で開催され、男子100キロ級に出場した 天理大学職員の穴井隆将選手(26歳)が見事に初優勝を果たした。昨年の前回大会では、優勝候補の筆頭に挙げられながら3位に終わった穴井選手。雪辱を期 して臨んだ今大会では”天理柔道の神髄”を貫き、真の世界王者としての実力を証明してみせた。

昨年は、全日本選手権を初制覇し、日本重量級のエースへ一気に躍進。しかし、気負いからか、8月の世界選手権は銅メダルに終わった。

その後も、プレッシャーのなか、結果を出せない日が続く。稽古に稽古を重ね、今年に入ってようやく国際大会で連勝。

だが世界ランク1位の穴井選手は、世界中の強豪選手の研究の的だ。全日本選手権で連覇を逃し、5月と7月のグランドスラム大会も不振。7月のベラルーシ合宿中は、「代表から外してほしいとさえ思った」。

昨年の世界選手権では、日本男子は五輪を含む世界大会で史上初の金メダルゼロ。今大会が近づくにつれ、日本のエースとしての屈辱が胸に込み上げてきた。

大会を1カ月後に控え、昨年結婚した久実子夫人が長男を出産した。しかし、1度病院を訪ねたきりだった。

今大会には111の国と地域から過去最多の848人が参加。100キロ級では例年以上の激戦が予想されるなか、穴井選手は1回戦から”しっかり組んで一本を取る”天理柔道を確実に実践した。

アリエル・ゼエビ選手(イスラエル)との2回戦では、開始わずか5秒、「送り足払い」で一本勝ち。デスパイン選手(キューバ)との準決勝では、延長戦の末、一瞬の隙を突いて得意の「内股」を決めた。

初挑戦となった決勝の舞台。相手は、前大会準優勝のヘンク・グロル選手(オランダ)。穴井選手は序盤から組手を意識し、果敢に内股などの技を仕掛けていく。しかし、組手を避ける”穴井対策”を練ってきたグロル選手は、決定的な場面をつくらせない。

その後、守勢一方の相手に二つの「指導」が与えられ、穴井選手は「有効」ポイントを獲得。しかし、守りに入ることなく、技を繰り出す。

世界一の称号を懸けた5分間。穴井選手は天理柔道の神髄を貫いた。

昨年の世界選手権後、「世界大会での屈辱は、世界の舞台で晴らす」と誓った有言実行の金メダル。日本のエースの重責を果たした瞬間だった。

穴井選手は「自分でも精神面が強くなったと思う。『常に前へ』という気持ちで臨むことができた。何より、篠原監督の前で結果を出せて本当に良かった」と話した。

全日本と世界選手権の制覇を成し遂げている篠原監督に、また一歩近づいた穴井選手。次に目指すのは、恩師が成し得なかった”日本柔道界の三冠”の最後の一つ、オリンピックでの金メダル。いまだ7人しか達成していない、その偉業に王手をかけた。